米IT企業の人員削減が止まらない。イーロン・マスク氏が買収した米ツイッターは人員50%、米メタも1万1000人超の解雇に踏み込んだ。新型コロナウイルス禍によるIT特需は終わり、広告の不振に伴う暗黒期に突入したとの見方も広がる。こぎ手を失いながら、事業の再構築や新たな潮流を探る困難なかじ取りが続く。

米ツイッターの本社ビル。起業家のイーロン・マスク氏が22年10月27日に買収を完了したと発表した
米ツイッターの本社ビル。起業家のイーロン・マスク氏が22年10月27日に買収を完了したと発表した

 「まったく災難だよな。あんな狂った男に好きなようにされて」ーー。

 米サンフランシスコ市街のツイッター本社前で青い鳥のロゴマークを撮影していると、昼間から一杯ひっかけたようなトーンで男が声をかけてきた。マスク氏やツイッター幹部が、大規模な人員削減を公表した直後のことだった。「お前もツイッターの社員か? なんだ記者かよ」と、男は立ち去った。市街の人々にも大きな話題になっていることがうかがえる。

マスク氏はツイッター本社の玄関に入っていく様子を動画で投稿した
マスク氏はツイッター本社の玄関に入っていく様子を動画で投稿した

 その本社玄関にずかずかと入っていく動画をマスク氏がツイッター上に投稿したのは10月26日。「ツイッターを洗い流す」という意味なのか。洗面器のシンクを手に抱えて受け付けカウンター前を通り過ぎ、おどけて見せた。翌27日には「鳥は自由になった」とつぶやき、買収の完了を公表した。

 そのパフォーマンスから1週間後、大規模な人員削減が始まった。11月4日に「会社が1日に400万ドルの赤字を出している以上、残念ながら人員削減は避けられない」とマスク氏はツイート。ある幹部によると、全社員の50%が対象となった。21年末の社員数が約7500人だったことから3000人以上を解雇したと見られる。

 解雇が始まる前、ツイッター本社の前でインド系の従業員に声をかけた際、「マスク氏が良いリーダーになるかって? 分からないね。僕は技術者じゃないから」と答えてくれた。解雇は人事管理や広報部門といった技術者以外にも広がっているとされる。彼がまだツイッターに残っているかは分からない。

米メタのマーク・ザッカーバーグCEO。10月上旬の技術説明会の映像より
米メタのマーク・ザッカーバーグCEO。10月上旬の技術説明会の映像より

 ツイッターに続き、大量解雇を発表したのがメタ(旧フェイスブック)だ。マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は11月9日、社員に向けたメッセージを公表。1万1000人もの削減は「メタの歴史の中で最も困難な決断」と位置付けた。さらに「パンデミック後も成長が続くと予測し、投資額を増やしたが、収益は予想をはるかに下回った。これは私の間違いで、その責任は取る」と記している。

 他にもライドシェア大手の米リフト、オンライン決済の米ストライプなどが人員削減に踏み切った。技術系スタートアップの解雇情報サイト「Layoffs.fyi」によると、11月10日時点で同月の人員削減の数は2万人を超えている。米アマゾン・ドット・コムもしばらくは採用を凍結すると公表した。

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