総務省は、2017年に「自治体戦略2040構想研究会」という研究会を立ち上げた。この研究会による最初の報告書では、「人口増加モデルの総決算」「新しい社会経済モデルの検討」がうたわれた。本格的な人口減少と高齢化を踏まえ、持続可能でかつ質の高い行政サービスを維持し提供するための課題や行政のあり方を探ることを目的に立ち上げられた研究会である。名称に入っている「2040年」は、日本で65歳以上の高齢者人口が最大になると予測されている年だ。
大学教授や民間シンクタンクの研究員を集めた研究会は17年10月の第1回から16度も研究会を開催して議論を重ねている。この間、わずか8カ月。平均すると月に2回ずつ研究会を開いたわけだ。通常、この手の研究会は結論が先にありきのことも多く、これだけの頻度で議論を重ねるのは珍しい。それだけ政府の本気度が見て取れる。
最終的に18年7月に報告書としてまとめられ、総務省のウェブサイトに公開された。その報告書には、自治体行政(OS)の大胆な書き換えが必要であるという内容が記されている。
特に注目してほしいのは、自治体行政の標準化/共通化がうたわれ、「新しい公共」へのシフトが急を要すると記載されている点だ。「パブリック(行政、Public)」と「プライベート(企業、Private)」の協力体制の構築が急務であり、今後、自治体がプラットフォーマーとなる未来が描かれている。
ここでいうプラットフォーマーとは、企業やNPO(非営利団体)などの異なるステークホルダー(利害関係者)間の協力体制の構築を支える役割を指し、そのために必要な支援や環境整備を担うことをいう。行政が企業と連携/共創しながら、民間が開発するサービスを公共サービスとして展開していく必要性が、報告書にはっきりと明記されているのだ。報告書には、随所に「パラダイムシフトの必要性」「行政のフルセット主義の終焉」「企業との連携の重要性」がちりばめられ、「これでもか」というほど強調されている。
「大きな政府」でもなければ、「小さな政府」でもない
19年8月に経済産業省が発表した報告書「21世紀の『公共』の設計図」もまた大きな話題を呼んだ。この報告書の提言は、総務省の報告書よりも大胆に踏み込んだものだった。社会課題が複雑化、多様化し、行政がサービスを提供するよりも民間のサービスの方がきめ細かく対応できる可能性が示されている。これまでの行政システムは限界にあり、公共が多様化していくという未来を展望した。
中でも印象的なのが「行政の役割がこれから変わっていく」ということを明確に言い切っている点である。公共サービスにおける行政の役割は、これまでの提供者からファシリテーターに変わるのだという。提供者とは、市場で供給されないサービスを公共サービスとして個人に直接供給する役割のことである。ファシリテーターとは、サービスが自律的に提供されるようにその供給構造を再設計し、実行を後押しする役割である。
もちろん、公共を市場のメカニズムにそのまま任せていいわけではない。小泉政権による改革以降に、より顕著になった「官から民へ」の流れの中で資本主義経済における市場原理に任せてしまうと、どうしても「お金がもうかるサービス」だけが生き残ってしまい、「社会にとって重要な価値を持つもの」が残らないという課題がある。
公共サービスを民間に任せることに対する公務員、とりわけ現場を持つ公務員の心理的な不安や抵抗感はここにある。「お金がもうかるサービスだけが残って、市民が置き去りになってしまうのではないか」という点だ。至極まっとうな感覚である。
さりとて、行政が公共のすべてを運営するために用意できる財源もなければ、人材もいない。もっと言えば、行政組織の肥大化によって、サービス提供の効率も質も低下するのは誰の目にも明らかで、だからこそ行政の悩みは深い。
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