財務省のシンクタンクとして財政経済に関する各種調査、研究などを手がける財務総合政策研究所が2020年6月に発表した「人口減少と経済成長に関する研究会」報告書では、40年に人口減少と高齢化の影響で消費税や所得税、個人住民税の税収などが発表当時と比べて1割ほど減少すると分析している。高齢化によって医療費などが膨れ上がっていくことも合わせて考えれば、税収の1割減のインパクトがどれほど大きいかが分かるだろう。

官と民でも人材の獲得競争

 生産年齢人口の減少は、様々な見方ができる。一つには行政と企業の間で人材の獲得競争が始まる。少ない人材を奪い合っていても仕方ないから、いずれ官と民の間で流動性が生まれていくことになるだろう。奪い合うというよりは、人材をシェアするということが起きる。実際、自治体が企業から民間人材を兼業、副業の職員として獲得する動きが出てきた。市の長期ビジョンの策定で民間から副業人材を採用した長野市や、都市ブランド戦略の策定のための人材を民間に求めた浜松市、福山市(広島県)、生駒市(奈良県)など、自治体が民間人材をシェアする取り組みは始まっている。

 19年に民間からの副業人材の登用を始めた浜松市は、その目的について「多様化・複雑化する市民ニーズと、AI(人工知能)やあらゆるものがインターネットにつながるIoTなどテクノロジーの進化などに迅速かつ的確に対応していくためには、既存の行政の考え方にとらわれない柔軟な発想と斬新なアイデアが必要」としている。その対象は都市ブランド戦略や、AI・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの技術導入、ファイナンス、一次産業支援など幅広く、20年度には803人の応募があった。

 一歩進んでいるのは生駒市で、一定の条件付きではあるものの、市職員が民間企業で副業することも認めている。生駒市のウェブサイトには、「より一層厳しい自治体経営が予測されること」「市民と行政がお互いの立場を認識し、協働すること」、そのために公益性が高く、市内外の地域の発展に寄与する活動であれば、報酬を伴う副業を認めると書かれている。条件付きではあるものの、企業での副業を認めた、画期的な取り組みだ。これまでにも中央省庁と企業、地方自治体と企業の間では出向を活用した人事交流は行われており、生駒市の取り組みはそれをさらに一歩進めたものと言っていい。このように官と民の間における人材の流動性は今後ますます加速していくことになっていくだろう。

 生産年齢人口の減少がもたらす、もう一つの影響は労働生産性の向上への取り組みである。国内総生産(GDP)は労働人口と労働時間、労働生産性の3つの変数の乗算によって算出されるため、GDPを成長させるためには、人口が減る以上、労働生産性を上げる以外に道はない。テクノロジーの著しい進展もあって、社会の随所にある「生産性の低かったもの」「人がやらなくても済むもの」などはどんどんテクノロジーで置き換えられていくはずだ。昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームは、労働生産性の向上に対する社会ニーズから生じている。

 生産年齢人口の減少がもたらす税収減や官民の人材の流動化、労働生産性の向上などの背景によって、官民共創は一気に加速するだろう。いつまでも過去のやり方、考え方を踏襲するのか、それとも官民共創の新しい道を模索するのか。「今日の選択が未来をつくる」という覚悟が問われている。

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