総務省の「令和3年版地方財政白書」によると、2019年度の経常収支比率は、都道府県が93.2%、市町村が93.6%で理想的な範囲と比べるとかなり高く、総じて財政の弾力性は低い。自治体別に見ても、理想的な範囲に収まっている自治体は都道府県で1つ、市町村で85自治体しかない。特に政令指定都市の財政構造は弾力性が低い。20年度は横浜市(100.5%)や堺市(100.8%)のように100%を超えている自治体もあり、その他も多くは97~99%の間と高い状況だ。
政令市も財政再生団体に転落寸前
全国を見渡すと財政状況が黄色信号の自治体は少なくない。それは規模の小さな村や町だけの話ではなく、人口が100万人を超える政令指定都市のような大規模自治体にとっても人ごとではないのだ。これを加速させたのが新型コロナウイルス感染症だった。想定外の感染症の発生によって、いざという時の財源である財政調整基金を取り崩して事に当たらざるを得なかった自治体は多い。
日本で最も財政が豊かな自治体である東京都は、コロナ対策に21年9月まで累計で8073億円を財政調整基金から捻出している。その結果、19年度末に9345億円あった財政調整基金は1976億円まで目減りしている。東京都は一時期、財政調整基金が21億円まで激減する見通しすらあった。他の自治体も「推して知るべし」だ。
コロナ禍に突入して1年が経過した21年の前半には、世間を驚かせる話題も聞こえてきている。世界的な観光地として多くの人が訪れる京都市の財政が破綻寸前というニュースである。同市によれば、28年度にも企業でいうところの破綻に相当する「財政再生団体」に転落しかねない状況にあり、21~25年度の5年間で1600億円の財源捻出に取り組むとした。京都市の財政の厳しさは5、6年前から関係者の間ではささやかれていた。もともと18年度に相次いだ自然災害への対応から財政調整基金はゼロという厳しい状況にあったため、コロナ禍でも取り崩す財源さえない状況だった。
今行動しないと財政破綻に……
日本一大きな基礎自治体である横浜市もIR(統合型リゾート)誘致の是非を巡る議論の中で、当時市長だった林文子氏が「横浜市の財政は大変厳しい」という趣旨の発言をしている。19年8月の定例記者会見で、「これまでIRについて白紙と一貫して言っていた中で、IR誘致を決断した経緯は何か」という質問に、「横浜は華やかなイメージがあるが、現状の収支は毎年500億円ほどの不足で予算編成をしており、今後財政状況は厳しくなることが見込まれている」と林氏は答えている。
横浜市の財政への危機感はその後も加速しており、22年1月の定例記者会見では、現在市長を務める山中竹春氏が「今行動しないと近い将来、財政破綻に向かっていく可能性がある」と、相当踏み込んだ発言をしている。このように自治体が自ら財政が厳しいと公の場で認めるのは過去にはなかったことだ。
国と異なり、通貨発行権をもたない地方自治体は、自前で債券を発行してマーケットから資金を調達しない限り、足りない予算を充足できない。横浜市の投資家向けの資料を見ると、20年に181億円、21年に500億円の債券を新型コロナ対策のために発行している。債券は買ってくれる相手があっての話であるため、仮に自治体の信用度が下がれば、そのうち債券を買ってもらえないという状況が生まれても不思議ではない。民間からすると、自治体のデフォルトリスクは本当にないのか、かつての夕張市の前例があるだけに気になるところだ。
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