未来予測が難しい時代であるものの、ある程度見通せる未来もある。人口動態はその一つだ。例えば、人口減少・少子化・高齢化は日本に確実にやってくる未来である。コロナ禍が長期化している影響で、出生率の低下による少子化の加速や、テレワークの普及による都市部への人口集中の緩和といった変化は生じつつある。だが、急に日本の平均年齢が若返ったり、人口が増え始めたりすることはないし、東京圏のような大都市圏から地方へと人々が大移動を始めることもないだろう。

 ここからは、こうした人口動態や社会のトレンドをベースに、官民共創を取り巻く環境の現在と未来について、次の6つの動きを紹介していこう。

  1. 自治体の財政難と生産年齢人口の急減
  2. ユニバーサルな行政サービスの終焉(しゅうえん)
  3. 株主資本主義の見直しとSDGs(持続可能な開発目標)/ESG(環境・社会・企業統治)
  4. 課題解決のデフレ化と経済合理性限界曲線
  5. 複数の自治体で機能をシェアする
  6. 社会課題の解決と新しい資金調達手法

 行政と企業が互いの強みを持ち寄りながら、社会にインパクトと価値をつくり出していく官民共創に注目が集まり始めているのは、これら6つの動きが背景にあることが大きい。

自治体の財政難と生産年齢人口の急減

 まず、日本の自治体の財政状況について触れておこう。「自治体の財政はどうやら厳しそうだ」という社会的な理解は少しずつ形成されつつある。だが、「そうはいっても、本当のところは困ってないだろう?」という認識も根強い。この誤った認識に頭を悩ませている自治体関係者は多い。人口が数万人の自治体でも年間予算は100億円近くに達する。民間企業の感覚からすると、100億円の予算で運営される会社はそれなりに大きな規模である。その感覚で自治体を見ると、「困っている」と耳にしても「そうは言っても、本当はお金あるでしょ?」と考えてしまいがちだ。

 実際のところはどうなのか。予算のほとんどは義務的経費に消え、投資的に使える予算はごくわずかであることは、意外に知られていない。

 地方自治体の経常収支比率がそれを物語っている。この指標は自治体の財政構造の弾力性を表す数字で、比率が高いほど弾力性が低い。つまり、比率が高いほど社会ニーズに合わせて柔軟に使える経費を用意する余地が小さいということになる。一般に経常収支比率は70~80%が理想とされている。

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