“お役所仕事”は宝の山

 自治体財政の現状についてはまた改めて分析するが、公共サービスの運用を手がけている地方公務員が働く環境の変容も大きい。お役所仕事という言葉がある。公務員は非効率で、だらだら働いていて、定時になればサッと帰っていく。これがおおむね世間がお役所仕事という言葉から想起するイメージだろう。しかし、このイメージは現在の公務員の働く環境の実態とは大きく乖離(かいり)している。数字を見てみよう。

 全国の地方公務員数は1994年がピークで328万人だった。ここから48万人減少して、2021年は280万人だ。この間に15%の人員削減が行われてきたことになる。いわゆるリストラはできないため、新卒採用を控えてきたわけだ。この長い間の採用控えがじわりと自治体を苦しめている。一般に若いほど発想が柔軟で、情報への感度は高い。複雑化・多様化する社会課題と向き合うには柔軟な発想のできる人材は不可欠だが、採用を控えてきたことで、若い人材が地方自治体には絶対的に足りていない。それもあって、自治体が実施し切れなくなっている業務や、対応し切れなくなっている社会課題は増える一方だ。

 つまり、かつてのイメージとは異なり、人手不足で手が回らず、何とか現場で職員が悪戦苦闘している。これが、今の「お役所仕事」の実態だろう。市民からの要望にスピード感をもって応えられていない状況と言ってもいいかもしれない。現場の職員も「何とかしてよ」と思っているはずだ。一般財団法人の地方公務員安全衛生推進協会の調査では、メンタルの不調により1カ月以上休んだ経験のある公務員はこの15年で2.1倍に増えている。これも、背景に採用控えの影響があると見ていいだろう。

 自治体の目の前には、解決したいけれども自前ではどうにもならない社会課題が山積している。これが、現在の「お役所仕事」のイメージである。視点を変えると、お役所仕事には多くのニーズが存在しているということになる。非効率なまま放置せざるを得なくなっている業務、解決したくても手を出せなくなっている社会課題は、民間企業にとってビジネス機会の宝庫だ。

企業経営でも「社会における存在意義」を重視

 これまで、行政が実施する公共サービスは、民間企業がビジネスとして手を出しにくい非効率な領域が多いとされてきた。仮に、公共サービスを手がける民間企業が業績悪化で手を引けば、市民生活に多大な影響を与えることになる。それ故に、税収を前提に収支は度外視で自治体が取り組むことの意義があるわけだ。

 だが、昨今のテクノロジーの進展によって、そうした非効率な領域さえも事業の枠組み自体から変えることができるようになった。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは単なるデジタル化ではなく、デジタル技術を活用して非効率な領域を本質から変革(トランスフォーム)するという意味である。行政におけるデジタル変革は「行政DX」と呼ばれてビジネスチャンスになっている。

 企業経営においては、社会課題を解決する取り組みの推進が最優先課題になった。例えば、株主資本主義から脱却し、企業は社会における存在意義(パーパス)を考えながら経営しなければならないとする、米国発の経営環境の変化という外圧がある。いわゆる「パーパス経営」だ。加えて、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsの観点で、人や自然環境にやさしくない経営は今や投資家から許されない。

 解決すべき社会課題を抱えた行政と、社会課題の解決を収益に変えていく取り組みを強く求められる企業が手を携えながら社会課題の解決を軸にした新しい価値創造に臨んで、生活しやすい社会を共に創り出していく。それによって、“お役所仕事”に企業を巻き込みながら、社会を良くする方向に向かう。まさに「官民共創」の時代が到来しているのである。

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12/15ウェビナー開催、「外食を救うのは誰か」第1回――すかいらーく創業者の横川氏が登壇

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■テーマ:「安売りが外食苦境の根源だ」ファミレスをつくった男が激白
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