
今、日本の行政は曲がり角を迎えている。前回「財源は意外な方法で生み出せる」までに紹介してきた枚方市のプロジェクトは、それを解決するために官と民の目線を同じ高さに合わせ、民の投資を呼び込む新しいタイプの連携要素を多く含んでいる。
行政が曲がり角にあるのは、戦後営々と築き上げてきたシステムが制度疲労を起こしていることが大きい。その原因はシンプルだ。従来のシステムが前提としていた「人口ボーナスに支えられて経済が成長し、それに伴って税収が伸びていく時代」が終わったからである。
高度経済成長時代の経済活動と同様、行政運営も大量生産・大量消費のマインドセットで設計されてきた。それは何かといえば、「未来は予測できるもの」という前提である。経済成長が続く中でかなりの確度で未来に見通しが立つからこそ計画が重要で、計画があるからこそ「早く」「効率的に」政策を伝達できた。だが、バブル崩壊後の失われた時代を経て、この方程式は成り立たなくなった。
社会の成熟化が進み、生活者の生活スタイルやニーズの多様化が進んでいることも状況をさらに複雑にしている。社会課題の複雑化・高度化・多様化と言ってもいい。多様化の様子は人口動態の変化に表れている。ほんの30年前の1990年と、最新の国勢調査が行われた2020年の間の変化を比較してみよう。
30年前の日本とは社会の姿が全く異なる
1990年の高齢者人口(65歳以上)は1489万人で全人口に占める割合は12.1%だったが、2020年には3602万人と2.4倍に増え、全人口に占める割合は28.6%と3割弱に高まった。14歳以下の子どもの数(若年人口)は2020年に1503万人と1990年の2248万人から745万人も減っている。割合にすると33.1%減である。また、独り暮らしの単独世帯数は、1990年の939万世帯から2020年には2115万世帯と2.2倍に増えた。
生涯未婚率は1990年に男性5.6%、女性4.3%だったのが、2020年に男性26.7%、女性17.5%と推定されている。男性の生涯未婚率は実に21ポイントの上昇で4人に1人が一生独身ということになる。女性も13ポイントと上昇幅は大きい。男性が働き、女性が家事を支える専業主婦世帯もほぼ一貫して減少傾向にある。国の労働力調査によれば、専業主婦世帯は1990年代の900万世帯前後から、2020年には571万世帯と急減している。
こうして数字だけ見ても、従来のシステムが想定していた社会と現状に大きな相違が生じているのは誰の目にも明らかだ。家族の構成も生活スタイルも多様になった今、ただでさえ財政に不安を抱える行政が公共サービスですべてのニーズに応えていくことは不可能である。コロナ禍による緊急財政出動を経て、自治体の財政不安の深刻度は増している。政令指定都市の、あの京都市ですら「すわ、財政破綻間近か」と報道されるほどなのだ。
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