2022年2月。大阪府枚方市の「子ども食堂すがはらひがし」で、夕食に集まった子どもたちの笑顔が弾けた。これまでは提供が難しかったフルーツポンチなど、子どもが喜ぶメニューがテーブルに並んだからだ。思いがけないデザートを前に笑みがこぼれる子どもたちを見て、子ども食堂のスタッフも心が温まった。

 複数の企業と地方自治体が連携し、IT(情報技術)を積極活用しながら社会課題を解決する新しいタイプの官民共創プロジェクトが動き出した瞬間だ。子ども食堂は無料または低価格で子どもに食事を提供する施設で、地域ネットワークの交流拠点づくりや子どもの貧困対策などを目的として主に市区町村による補助金で運営されている。枚方市のプロジェクトはDX(デジタル・トランスフォーメーション)化を進めて食堂運営の効率を高め、子どもたちに温かく、おいしいご飯を食べてもらえる場を増やすための取り組みである。

 今回の実験では物品の提供者・寄付者と食堂のマッチングにITを活用することで、電話やファクスを使用していた従来の手法よりも運営経費を効率的に使えることが確認できた。この日のフルーツポンチは、マッチング用のウェブサイトに表示された寄付物品の一覧にパイナップルの缶詰があるのを見つけたスタッフのアイデアだ。効率化で浮いた経費でみかんやソーダ水を購入し、寄付で受け取った食材と組み合わせてフルーツポンチを作ったのである。同じ予算で子どもたちの笑顔を増やせたことは、施策として立派なアウトカム(成果)といえる。

社会課題の解決と新サービスを組み合わせる

 枚方市は、子ども食堂を市内にあるの小学校区すべてに拡大することを目指している。この数は、同市が補助金を交付している子ども食堂のほぼ2倍に当たる。だが、食堂の場所を増やすことは簡単ではない。自治体がサポートする公的な事業とはいえ、子ども食堂の多くは草の根的な手作りの取り組みで、多様な課題を抱えているからだ。中でも大きな課題の1つが、食材を提供・寄付する個人や企業と子ども食堂をマッチングする仕組みである。

 従来は、マッチング業務を市の職員が担っていた。食材の寄付の申し出があった時に、そもそも「当日に食堂を開けているか」、開けているならば「食材が必要か」といった内容を、一軒一軒の子ども食堂に電話やファクスで確認し、食材の提供者と食堂をつなぐ。人手による処理には限りがあることに加え、マッチングが成立した後にも課題があった。配送手段がないために受け渡しできず、厚意の食材をあきらめざるを得ないケースも少なくなかったのだ。

 人海戦術によるアナログの事業拡大には限界がある。もちろん、担当者を増やせれば解決に向かうが、限られた予算の中で簡単に人手を割くことはできない。そうした悩みを抱えた枚方市と連携し、食堂運営のDX化に乗り出したのは通信サービスを手がけるワイヤレスゲートである。特定非営利活動法人(NPO法人)の全国こども食堂支援センター・むすびえや地元でタクシー事業を営む第一交通(大阪府枚方市)と協力し、子ども食堂DXの実証実験プロジェクトを実現した。

次ページ 社会課題の解決を企業の新規事業に