これまでの官民連携は、どうしても実現手法に注目が集まりがちだったこともあり、財政や人口の規模が小さい自治体にはあまり縁のないものだった。だが、これからの官民共創では、むしろ規模の小さい自治体にこそチャンスが出てくる。その理由はシンプルで、自治体の規模が小さい方が官民共創プロジェクトを小さく生み、仮説を検証し、検証結果をプロジェクトにフィードバックして改善を図るという一連のPDCA(計画・実行・評価・改善)を高速で回しやすいからだ。

 先が読めないVUCAの時代には、高速で検証を繰り返しながら、あるべき姿、未来に到達するという方法こそが最短になる。それ故に、規模の小さな自治体のプロジェクトで成果を出していくことが官民共創における成功のポイントの一つになる。

大都市は調整のコストや期間がかかり過ぎる

 同じサービスを実現する官民共創プロジェクトであっても、人口や経済の規模が大きい自治体と、規模の小さい自治体とでは、実施した際のソーシャルインパクトの見え方が全く違う。規模の大きい自治体で誰から見ても分かるほどのインパクトを出そうとすると、プロジェクトの規模が大きくなる。実施に必要な予算も大きくなるため、「予算を誰が負担するのか」という問題が発生する。つまり、調整が必要な部署がそれだけ増えるわけだ。

 結果、官民共創プロジェクトを始めるまでの調整に時間とコストがかかり過ぎることになる。「小さく生んで、素早く試してみる」という方法ではプロジェクトを進めにくい。逆に、規模が小さい自治体では、小さな予算でプロジェクトを始めやすく、実施した際のソーシャルインパクトを可視化しやすい。

 この点に関しては企業サイドも頭を切り替えなければならない。従来の受発注の上下関係を前提に自治体との連携を捉えていると、自治体から予算をもらって、企業がノウハウを提供して社会課題を解決するというスキームになる。企業としては、大きな売り上げを確保するために自治体から出る予算規模を気にするようになり、必然的に大きな予算を用意できる規模の大きな自治体と付き合うことになる。いまだに多くの企業は社会実験や実証実験に取り組む際に、手を組む自治体の規模感を気にしている。

 これは、冷静に考えると不思議な話である。仮に、横浜市や大阪市、福岡市のような大規模自治体と社会実験や実証実験などの連携に取り組むとしても、実際には全域ではなく 自治体の特定エリアでの実施ということになる。そのエリアの人口規模は結局数万人程度だったりすることが多く、実は人口が数万人の自治体と実施する実験と同じなのだ。もちろん、「大規模な政令指定都市と実験したと世間に映ること」「より大きな案件につながるかもしれないこと」はメリットではある。

 だが、見返りの割には、大都市が相手だと調整のコストや期間がかかり過ぎる。特に、新しいサービスやソリューションを開発する初期フェーズにはあまり向いていないことが多い。初期フェーズに企業がタッグを組むべき相手は規模が小さく、小回りが利く自治体だ。その方がより良い成果につながるだろう。

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