自治体と企業が目線を合わせて共にプロジェクトを創り上げていくためには、共創のマインドを持っているかどうかが重要だ。そのためには、従来の官から民への一方的な受発注による上下関係のマインドを変えていく必要がある。そこで気になるのは「そもそも共創とは何か」である。確認していこう。
学術的に「共創」という言葉が登場したのは、2004年に米ミシガン大学の2人の研究者が著した書籍『The Future of Competition : Co-Creating Unique Value With Customers (邦題:『コ・イノベーション経営:価値共創の未来に向けて』、東洋経済新報社)だといわれている。副題の「Co-Creating 」が「共創」という意味で、直訳すると「顧客と一緒にユニークな価値を共創する」ということだ。この書籍での共創は必ずしも自治体と企業による官民共創のことを指しているわけではなく、「多様なステークホルダーが協働して新しい価値を生み出すこと」と定義されている。

日本の自治体で「共創」という概念をいち早く取り入れたのは横浜市で、2008年に「共創推進事業本部」という部署を立ち上げている。この時、議会から「共創とは何か」を問う質問が出ており、横浜市は「官民が知恵とノウハウを出し合うのが共創。今後、ますます重要になる」と答えている。この議会答弁には、官民共創の定義がギュッと凝縮されている。横浜市の答弁に少しだけ加えるのであれば、「企業と行政が対話を通じて、知恵とノウハウを結集し、新たな価値を創出すること」だろうか。そして、その新たな価値創出が社会課題の解決につながって、初めて共創ということになる。つまり、企業と行政が何かを一緒にやるだけでは共創とは呼べない。本連載で意図的に「共創」という言葉を使っているのは、そのためである。〝官民連携〞と〝官民共創〞は意味が異なる。
共創に対する理解は自治体も企業も、まだまだ足りていないのが現状だ。こればかりは互いが経験を積みながら血肉にしていく以外にないだろう。共創を腹落ちさせるのは「100の言葉よりも1つの体験」である。小さくてもいいから、まずは共創を体験することが重要だ。
横たわる「官の決定権問題」
特に自治体にとっては、企業との共創体験を積み重ねることが糧になっていく。体験の機会をどのようにつくっていくかが知恵の出しどころとなる。国の交付金や補助金のメニューを活用することも一案として考えられるし、自主財源で取り組む方法、企業版ふるさと納税を活用する方法、あるいは筆者らが開発した逆プロポのように民間のサービスを活用する方法など様々な手段が存在する。
「理屈よりも体験がすべてを変える」。これが大前提ではあるが、一つだけ知っておいた方がいいことがある。それは「官の決定権問題」という概念だ。これを提唱しているのは東洋大学PPP研究センターのセンター長を務める根本祐二氏。同氏は地域再生とファイナンスを専門に日本政策投資銀行で活躍していた。2006年に東洋大学総長だった元財務大臣の塩川正十郎氏が日本初の公民連携専門大学院を立ち上げた際に転籍した、官民連携/官民共創の第一人者だ。
その根本氏が警鐘を鳴らす「官の決定権問題」とは、「官民連携の意思決定プロセスに民間の意向が反映されず、費用対効果に知見のない行政の知識のみで決定されてしまうこと」である。つまり行政がプロジェクトのイニシアチブを握っているため、どれだけ企業がユニークなアイデアを持っていても、行政サイドの担当者にそれを理解できる能力やアイデアを受け入れる度量がなければ、官民連携プロジェクトには反映されないという問題が起きるというわけだ。
Powered by リゾーム?