「収益化が可能な事業はビジネスで、収益化が難しい事業は公共サービスで」。これまでの日本では、こうした企業と行政のすみ分けを前提に社会システムを動かしてきた。「課題解決策の『デフレ化』と経済合理性限界曲線から考える」で紹介した経済合理性限界曲線の内側と外側と言い換えてもいい。

 多くの人は変化を恐れる。自治体がフルスペックで公共サービスを提供することは難しいと頭では理解していても、企業が社会課題の解決に関心を持ちつつあることを知っても、まだ今までのやり方や発想で社会は回していけると思いたくなる。これが人のさがというものだ。行動や考え方が保守的になりがちな公務員は、その傾向がより強いかもしれない。だが、どんなに保守的な人々でもお金の流れが変化することには敏感で、意識が変わる大きなきっかけになる可能性がある。

 最も分かりやすい例は、ふるさと納税の制度である。日本全体を見ると地方の自治体に寄附をする住民が増え、都市部の自治体は税収減になるという流れが生まれている。総務省によれば、ふるさと納税による2021年度の横浜市の住民税減収額は176億円に達している。逆に、寄附の受け入れ額は都城市(宮崎県)の135億円がトップで、北海道の紋別市(133億円)や根室市(125億円)が続く。制度自体や返礼品を巡る是非の議論はあるものの、制度と自治体の取り組みいかんで税収が変わるということ、そして寄付の文化があまりないといわれる日本でもきっかけさえあれば市民が寄付に動くということが証明されたわけだ。

クラウドファンディングが名乗り

 ふるさと納税で生まれた市民による寄付の意識に表れているように、自治体にとっての資金調達のトレンドは今後大きく変わっていくだろう。クラウドファンディングは、資金調達手段の代表的な一つである。クラウドファンディングサービスを提供する企業は、社会課題の解決や公共サービスに関連するプロジェクトに力を入れている。

 こうしたプロジェクトの多くは寄付型で、出資者に形のあるリターンがあるわけではない。これまで行政が担っていた領域をクラウドファンディングという資金調達を使って代替しているわけだ。もちろん、資金の出し手は市井の人々で、お金を巡る考え方が変わりつつある。

 クラウドファンディングサービスを運営するキャンプファイヤー(CAMPFIRE)は19年4月に社会課題と向き合う人のためのサービス「グッドモーニング(GoodMorning)」を立ち上げた。「誰もが社会変革の担い手になれる舞台をつくる」をミッションに掲げたこのサービスでは、コロナ禍で苦しむ子どもたち、仕事や住まいを失った人たちへの支援などのプロジェクトが進行している。