前回の「企業の力を求める自治体と公益性を重視する企業の可能性を考える」では、パーパス経営で企業が公益性のある事業を求める動きや、テクノロジーの進化によって、これまで経済合理性がなく企業としては取り組みにくかった公共サービスが新たなステージに上がっている点を述べた。今回は事例を基に紹介したい。

 「汎用化で事業の広がりをつくり出す」で言及したウェルモ(東京・港)の「ケアプラン作成支援AI」は分かりやすい例の一つだ。

 かつては紙の書類の束をめくり、関係各所に電話をかけながら、20時間近くかけて人手でケアプランをつくるしか方法がなく、企業の事業としての経済的合理性はなかった。これが、行政が公開するオープンデータが整備され、AI(人工知能)のようなテクノロジーを手軽に活用できる環境になって変化した。人手で実行していた部分をITに任せられるようになるからだ。

 「ケアプラン策定に割く時間を短くして、ケアマネジャーが紙や電話と向き合っていた時間を顧客(住民)のために使えるようにしたい」という問いを立てたウェルモがビジネスチャンスを手にした。企業の事業として「ケアプラン作成業務」というビジネス領域がもともとあったわけではない。社会課題への深い洞察とテクノロジーの両方がそろったことで新しいビジネス領域を生み出したのである。ここでポイントになるのは“問いを立てる”ことにある。ウェルモは“問いを見つけた”のではない。

 「立てる」と「見つける」には大きな違いがある。ここは非常に重要なポイントだ。“問いを立てる”とは、インパクトを設定することと同義である。言い換えれば、理想と現実のギャップを定義する作業だ。

 ウェルモのケースにおける理想は「ケアマネジャーの時間は顧客と向き合う時間に使うべきだ」ということである。一方、現実は「顧客1人当たりのケアプラン策定に必要な情報を得る事務作業に時間がかかり過ぎ、顧客と向き合う時間が足りない」ということだ。

 同社は、この理想と現実のギャップを見つけたのではなく、行政との議論の中で自ら設定した。そして、ギャップを埋めるためには「事務作業の時間を減らすこと」が必要となる。ここでようやく実現手段の話になる。ウェルモは、それをオープンデータとAIで解決しようと決めたわけだ。

動物の殺処分という社会課題を解決する

 同じように、社会課題の解決を新しいビジネスに結び付けて、ソーシャルインパクトに挑戦する企業は多い。例えば、「ドコノコ」というスマートフォン向けのアプリがある。犬や猫が主役の写真投稿SNS(交流サイト)で、自分が飼っている犬や猫、街や旅先で見かけた犬や猫の写真を投稿し、他の会員と共有し交流できる。さらに、犬や猫の迷子を捜す機能がある。位置情報を使って近所のユーザーに通知したり、専用の掲示板で迷子探しの協力を呼び掛けたりすることが可能だ。

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