2年ほどの間に投資家と企業家の両側から従来の株主中心ではなく、企業のパーパスを重視するという宣言が出たのは偶然ではないだろう。『パーパス経営』(東洋経済新報社)の著者で一橋大学大学院経営管理研究科の客員教授である名和高司氏によれば、従来の企業経営で重視されたミッション/ビジョンは外発的なものであるのに対し、パーパス経営はより内発的なものなのだという。もちろん、大半の企業は「自社の存在意義」や「ビジネスの存在意義」を会社として定めていた。ただ、それほど意識してこなかった。意識しなくても事業が回っていたからだ。むしろ、“青臭い”ことはビジネスを阻害する要因ですらあった。

 日本では00年代からの大きな流れとして、ようやく株主資本主義が根付きつつある。一方で日本人の感覚からすると、「そうは言っても、顧客や従業員はみんな大切なステークホルダーだし……」というのが一般的な感覚だったが、それでは株価が上がらず、株主から突き上げを食らう。そうした場面をこの20年の間に何度も見てきた。そうこうしている間に世界は一周回って、株主資本主義の代表と思っていた米国が株主中心の経営の旗を降ろし、企業に公益性を求める流れに転換した。

 ただ、新しい流れは、過去の日本の姿と同じではなく、一段上がって進化したものだと考えた方がいい。つまり「稼ぐ」という意識を持ちながら、社会への貢献を果たしていくということになる。これから日本に影響が及んでくることになるだろう。官民共創の観点では、企業の力を求める自治体と公益性を重視する企業の目的が同じ方向を向くことになる。

大切なのは「これからどうするか」

 大切なことは今までどうだったかではなく、これからどうするか。企業もまた、自分たちは一体なぜ存在するのだろうかという内発的な問いに向き合わないと市場から評価されない時代に突入している。「我が社は一体何のために存在するのだろう」という問いと向き合う中から、事業を通じて社会課題の解決に取り組んでいこうという機運が生まれつつあるわけだ。

 少し前まではスーツにSDGsの丸いレインボーのバッジをつけていれば、それでいいという風潮もあったが、最近では「御社は持続可能な社会の実現のために、どんなアクションをしているか?」という質問に答えられないと、SDGsのバッジをつけていることで、むしろ恥をかくという流れになっている。一方の自治体としては、こうしたビジネスや経営を取り巻く環境の変化を頭に入れておく必要がある。それを知らずに協力企業のことを“業者”と呼んでしまう従来の感覚のままでは、せっかくよい共創パートナーがいても、それを見つけることは難しい。本気で社会課題と向き合ったビジネスを展開していこうと考える企業が登場し始めているのだ。

 具体例で示した方が分かりやすいだろう。製薬大手のエーザイは、パーパス経営を先駆けて推進する企業として注目を集めている。同社は、20年8月に公表した統合報告書でESGの取り組みが企業価値として表れる期間を分析した結果を示した。ESGの取り組みに関する数値とPBR(株価純資産倍率)の相関を調べたところ、「人件費投入を1割増やすと5年後のPBR が13.8%向上する」「育児時短勤務制度利用者を1割増やすと9年後のPBRが3.3%向上する」など、ESGの取り組みに関する数値が5~10年遅れて500億~3000億円のレベルの企業価値を創造することを示唆していたという。

 同社CEOの内藤晴夫氏は日本経済新聞のインタビューで「自己資本利益率(ROE)などの利益だけで企業の価値が推し量られるべきではない。むしろ、社会課題を効率よく解決できたかなど従来の指標では表現できない価値を測る必要があるだろう」と語っている。

 こうした企業を取り巻く環境や経営者の意識の変化を知らず、従来のイメージのまま利益だけを追求する存在として企業を色眼鏡で見ているとすれば、自治体は企業の本気度を見極めることができないだろう。残念ながら多くの行政組織は社会の変化に鈍感で、実感を持ちにくいかもしれない。だが、パーパス経営で企業が公益性のある事業を求める動きと同時に、テクノロジーの進化によって、これまで経済合理性がなく企業としては取り組みにくかった公共サービスは新たなステージに上がっている。

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