
行政と共に官民共創の取り組みを担う企業側も、世界的に経営のあり方が変容する過渡期にある。地球環境や社員にやさしくない企業はもはや許されず、サステナブル(持続可能)な経営であることを前提に、社会的な責任をこれまで以上に問われるようになった。
国連によるSDGsの取り組みやESG経営といったキーワードは大きな関心を集めている。これまでも企業の社会的責任は経営の課題ではあったが、最も大きく変わったのは投資家をはじめとするステークホルダーの意識と行動だ。SDGsやESGを意識していない経営には、ステークホルダーからノーを突きつけられるようになった。
社会の変化とは不思議なもので、自治体が企業に任せられるものは任せていかなければいけない状況にシフトする中、企業もまた収益だけではなく公益性が求められる、新しい経営へと移行し始めている。SDGsへの関心の高まりに加えて、コロナ禍の猛威によって従来の20世紀型の企業経営からの脱却が加速度的に進んでいるのだ。
こうした経営環境の変化の代表例は、米国発で企業経営の新しいトレンドになりつつある社会的な企業の存在意義(パーパス)をベースにした経営である。「企業は何のために存在するのか」「社会においてどのような責任を果たすのか」を考え、企業経営を進めていくことを指す。この言葉が注目されるきっかけとなったのは、米国の市場を動かしている投資家や企業家からコロナ禍前に相次いで発表された2つの文書だ。
株主資本主義からの脱却を宣言
第1の文書は、世界最大の資産運用会社である米ブラックロックのCEO(最高経営責任者)を務めるラリー・フィンク氏が2018年に世界の様々な企業のCEOに送った年次書簡である。同氏が年初に毎年送る書簡は「フィンク・レター」と呼ばれ、市場のトレンドに影響を与えているといわれる。18年のレターのタイトルは「パーパスの意識を持つ( A Sense of Purpose )」だった。そこで強調されていたのは企業の社会的責任(CSR)で、「企業が継続的に発展していくためには、すべての企業は、優れた業績のみならず、社会にいかに貢献していくかを示さなければなりません」と記されている。四半期決算を重視する近年の企業の姿勢を問題視し、もっと長期的な視点で経営するように呼び掛けた。
第2の文書は、米国の主要企業が加盟する団体「ビジネス・ラウンドテーブル」による19年8月の声明である。「企業のパーパスに関する声明(パーパス声明、Statement on the Purpose of a Corporation )」と銘打たれた文書は、過度な株主資本主義との決別だった。企業が株主のためだけではなく、様々なステークホルダーのために存在しているという宣言である。「どのステークホルダーも不可欠な存在です。私たちは、私たちの会社、コミュニティー、国の将来の成功のために価値を提供することを約束します」と締めくくっている。ビジネス・ラウンドテーブルは米国経済を象徴する団体で、企業は株主のために存在するという立場を取り続けてきた。その団体が株主資本主義からの脱却を訴えていることの意味は大きい。
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