最低の安酒を最高級ウイスキーだと信じ込んだ叔父
私の叔父は、安酒を使ったいたずらに引っかかったことがあり、わが家ではそれが語り草になっている。叔父は上質なウイスキーが大好きだ。そして私の父の家族には、いたずら好きの人がいた。彼らは安物のウイスキーを高級ウイスキーの空き瓶に詰めた。瓶のラベルには、職人が丹精込めてつくった18年物と書かれていた。
叔父が一口味わいどう反応するか、彼らは食い入るように見守った。中身が入れ替わっているのに気づくだろうか? 叔父は安物のウイスキーをまるで本物の最高級ウイスキーのようにうまそうに味わったという。
ウイスキー通の叔父がこんなペテンに引っかかったと、父の家族はこの話が出るたびに、笑い転げた。ここまで完全にだまされて、最低の安酒を最高級の酒だと思い込むなんて、彼はウイスキーの味をどこまで分かっていたのだろうか。
けれども叔父と同じようにだまされる人はほかにも大勢いる。似たような話は山のようにあるし、バリエーションもさまざまだ。高アルコールのビールを飲んで酔っぱらったら中身はノンアルコール飲料だったと後で知ったとか、ベッドメーカーがあるベッドの値段をかなり上げてより素晴らしい製品になったと宣伝したところ、顧客の満足度も上がったという話もある。

期待効果とは何か?
安物のウイスキーをうまいと思ったり、ノンアルコールのビールで酔っぱらったり、値段だけ高い低品質のベッドで気持ちよく眠ったりなど、人の感覚を狂わす不思議な力の正体は何なのか、深く分析されたことはこれまでほとんどない。
その正体は多くの場合、願望と期待によるものだ。私たちは目の前にあるものが自分の思う通りの味、匂い、寝心地であると予測し、期待を膨らませる。そして、実際にその通りの味、匂い、寝心地だと感じてしまう。
それは一般に期待効果と呼ばれ、医学的には「プラセボ」あるいは「プラセボ効果」として知られている。安物のウイスキーをおいしく飲める以外にも、特に効き目のある成分が入っていない薬で吐き気が治まったり、華やかなガラス容器に入った高価なシワ改善化粧品で肌が若返り滑らかになったように実感したりするのも期待効果だ。
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