時間は限られている

 時間は有限なのだと、米中だけでなく世界のリーダーたちは意識すべきだ。米中の2国は今、軍事、経済、技術において地球最強の国である。だが、協力関係はこの2国に限らず、世界が結ばなければならない。

 世界が協力し合えるかどうかについては、ヨーロッパが鍵を握り続ける。もちろん、世界各地の多くの国々や非国家組織にもリーダーシップの発揮が待ち望まれる。

 残念ながらコロナ禍で世界の分断はさらに進んだが、それでも今回のパンデミックから学んだ教訓から、危機対応を担う新たな国際組織の設立に向け世界は第一歩を踏み出せるはずだ。

 危険を見極め、問題が封じ込められなくなるほど大きくなる前に、解決策を慎重に計画し、国家間の調整を図り、解決策に対して合意を形成することができる国際組織が必要だ。

 ここで、大胆な予測をしてみよう。ヨーロッパとアメリカ、中国、その他の国々、様々な組織、そして人々は、世界共通の問題に協力して取り組むだろう。だが、その協力は、我々に必要な新しい国際機関を設立するのに十分で、迅速で、効果的だろうか。

 今回のパンデミックで、21世紀の大きな脅威は国境などまったく気にも留めないことが鮮明になった。「各国が独自に対応する」アプローチでは、いま人類が直面している問題には歯が立たない。

 新型コロナウイルスのワクチンを開発して分配するまでの国家間の競争は、賢明で善意ある人々が真剣に取り組めば、記録的なスピードで新たな問題を解決できることを再び証明してくれた。

 人間の創意工夫の力は十分にある。しかし、歩み寄りと協力、連携はコロナ禍以上に必要になるだろう。

破綻するグローバリズム

 グローバリズムは、グローバルとは名ばかりで、過去40年にわたり失敗を繰り返してきた。

 富裕国では、大卒資格がなく製造業で働く人は、もはや中産階級の生活には手が届かない。

 貧困国では、新しい中産階級が台頭しても、その恩恵にあずからなかった人々が、自分たちよりも恵まれた暮らしを営む人々の姿をかつてないほど身近で目の当たりにするようになっている。

 不平等は拡大する一方だ。どの国でも、グローバリゼーションがもたらした歴史的恩恵から排除された人々があまりに多く、結果的に、世界各地で一般市民が暴動を起こし、次世代のポピュリズム派の政治家たちが台頭して、市民の怒りにつけ込んでいる。

 今後は、自国政府に期待する安全や繁栄を、指導者がもたらしてくれるのかどうかを疑問視する一般市民が増えていき、わが子にとって、より良い暮らしができる世の中になるのだろうかと問うだろう。

 指導者たちはそれに対してよい答えを用意しておくべきだ。


 1985年のあの私的な会話で、ロナルド・レーガンは、もしも人類を超えた大きな脅威に直面したとしたら、我々は協力し合えるだろうか、と尋ねた。
 それに対しミハイル・ゴルバチョフは「もちろんです」と答えた。

 それが正しい答えなのである。

日経BOOKプラス 2022年11月9日付の記事を転載]

世界的知性による「警告と希望の書」

戦争、パンデミック、資源争奪、サイバーテロ……分断が深刻さを増し、民主主義が揺らぐ世界が直面するリスクの数々。地政学の世界的な第一人者である著者が、迫り来る脅威の本質を歴史的視点も交えて読み解き、解決策を提言する。

イアン・ブレマー著、稲田誠士監訳、ユーラシア・グループ日本&新田享子訳/日本経済新聞出版/2420円(税込)
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

春割実施中

この記事はシリーズ「グローバルTopics」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。