2人の会話から何を学ぶのか

 この逸話から始めた理由は2つある。

 1つは、世界の2つの超大国、アメリカとソ連の首脳による初の談笑が、米ソ関係にとり重要な瞬間だったとゴルバチョフが述べていることだ。

 2人の会話によって、平和が保障されたわけでも、冷戦が立て直されたわけでもなかった。

 その後何年にもわたり、レーガン、ゴルバチョフ、そして米ソの交渉に携わった人々にとって、激論を交わさなければならないことばかりが続き、冷戦もすばらしい交渉が成立して終わったのではなく、ソ連の崩壊によって終結した。

 しかし、信頼と善意の種をまくかのごとく、レーガンの質問と、それに対するゴルバチョフの答えは、それまでの米ソの首脳の間には存在しなかった、良い関係の土台を築いた。その土台の上に、核武装した敵対国同士が、両国と世界にとって存亡の危機を回避する目的で、協力のみならず連携さえも築くことが可能になった。

 それまでの米ソの首脳たちは、冷戦時代を代表する2つの超大国は衝突の道を進んでいるのだと自らに言い聞かせ、相手に対しても説き伏せることを繰り返していた。レーガンとゴルバチョフは、米ソがその道から離れなければならないと理解し、方向転換を図ったのだ。

 このおかげで、冷戦終結以降、世界全体で国家の安全が保障され、繁栄に向かって進展し、世界はその成果を享受してきたのである。

 もう一つの理由は、現在の世界の指導者たちが、彼らが統治する国の存亡の危機に実際に直面していることだ。

 まずは、世界を襲ったパンデミックだ。このパンデミックが引き起こした損害や痛みは、今後何十年も消えないだろう。途上国ならなおさらだ。

 新型コロナウイルスをきっかけに一種の戦いが始まったが、勝者は誰もいない。多くの政府は深刻な過ちを犯し、ほぼどの国でも、あまりにも多くの命が失われた。そしてどの国でも、経済が急速に冷え込み、新たな負債を抱え込むことになった。

 国内だけでなく国境を越えて、政治家たちが互いを指弾している間、我々全員のダメージを抑えることができたかもしれない重要な情報や医療資源が入手できなくなり、事態はさらに悪化してしまった。

 次の10年で、我々はもっと大きなリスクに直面するだろう。こうした問題を乗り越えるには、今回のパンデミックの教訓をすべて心に留め、学ぶ必要がある。たとえ世界の指導者たちが合意しなくてもだ。

 アメリカ、中国をはじめとする各国政府は、現在も今後も、決して意見を一致させることがない。政治や安全保障、経済の何百もの問題をめぐって、表舞台だけでなく裏でも、争い続けるだろう。

 しかし、世界を同時に脅かす大きなリスクについては、過去の過ちから学びながら、責任、情報、負担、非難、債務を分かち合うことが可能だ。

 世界最重要国のリーダーたちが、協力して世界を襲う脅威に立ち向かえるだけの信用を築くことができなければ、SF好きのロナルド・レーガンが想像もしなかった破滅の危機に、全員が苦しむことになるだろう。

来るべき危機

 100年に一度の公衆衛生危機が起きて2年あまりが過ぎた。世界は今もなお、態勢を立て直すのに苦戦しているが、我々の未来は少しずつはっきりと見えてきた。

 まずは2つの事実に目を向けよう。

 第一に、アメリカは依然として世界唯一の超大国だが、その国内政治は崩壊している。
 第二に、世界全体の将来を考えるうえで見逃せないことだが、米中関係は間違った方向に進んでいる。

 この2つの現実が、世界危機が起きていても、対応するのを難しくしている。

 現在、我々は3つの世界危機に直面している。

 1つはパンデミックだ。世界は今も、新型コロナウイルスの経済的、政治的、社会的影響を払拭できずにいるばかりか、今後も危険なウイルスに苦しめられるのは間違いない。

 2つ目は気候変動で、何十億人もの人々の暮らしを一変させ、地球上の生命の持続性を脅かすだろう。

 3つ目は破壊的な新技術だ。これが、我々人類の未来に最も暗い影を落とし、我々の生き方、考え方、他人とのかかわり方を変え、それが思わぬ悪影響を人類におよぼし、人類の未来を決めるだろう。

 アメリカ国内政治が崩壊し、米中の対立が激しくなっているせいで、国際的信頼関係の構築が危うくなり、現代を脅かす大危機に立ち向かうのが困難になっている。

いま我々が直面している危機は、何十億という人々の生存を脅かす(写真:shutterstock)
いま我々が直面している危機は、何十億という人々の生存を脅かす(写真:shutterstock)
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