社会問題解決のための起業

 ゴジェックとトコペディアの2社はともに2010年ごろに誕生し、2015年ごろから本格的な成長を遂げたテック企業だ。両社に共通するのは、インドネシアの社会問題を解決することが起業の原点であることだ。ゴジェックは交通サービスの改善や貧困の解消がサービスの原点だ。トコペディアは小売業の地域間格差の解消を志したサービスだった。

 もう1つ、両社の際立った特徴を挙げるとすれば、それは万人向けのサービスを構築したことだ。

 マーケティングの教科書的な言い方をすれば、途上国ではBOP(ベース・オブ・ザ・ピラミッド=低所得者層)ビジネスが定石の1つだ。人口ピラミッドの下層に属する低所得者層をターゲットに「広く、浅く」商売をする方法だ。一方で人口の数%しかいない、ほんの一握りの富裕層向けに「狭く、深く」サービスを提供する戦略もある。ただ、この両者が一体化した万人向けサービスというのは意外に少ない。

 ゴジェックは「社会のすべての層の人が使える稀有(けう)なサービスだ」(同社の加盟店担当責任者、リュウ・スリアワン)。同じことはトコペディアにも言える。「商業の民主化」をミッションとして掲げる同社のサービスは、金持ちだろうと貧乏人だろうと、誰もがスマホを使って平等に物を売り買いできる。

「配車サービスではない」

 ゴジェックは2010年にナディム・マカリムが創業した。当時はコールセンターでバイクタクシーを配車するサービスで、実質的に現在のサービスが始まったのは2015年にアプリを配信してからだ。

 ゴジェックは利用者の観点から見ると、二輪車や自動車の配車、外食の宅配、荷物の配達、電子マネーを中心とする金融サービスなどを1つのアプリで提供するサービスだ。連載第1回で取り上げたグラブとサービスがよく似ていて、実際に両社はインドネシアやシンガポールなどで直接競合する。当初は配車を中心としたサービスだったので、日本語では英語のRide Hailingを訳して「配車サービス」と呼ばれる。

 配車サービスと言えば、米ウーバー・テクノロジーズがその代表だ。ウーバーは2009年に米国で誕生した。アプリで配車する点はゴジェックもウーバーも同じだが、前出のリュウ・スリアワンは、「ウーバーのまねではない」と断言する。

 「アプリを使うという点はウーバーを参考にしたことは確かだ。ただ、サービスは全然違う」。その証左となるのが、ゴジェックが遅くとも2015年のアプリ配布開始時に、すでに配車だけでなく外食の宅配などにも対応していたことだろう。ウーバーが料理宅配サービス、ウーバー・イーツに注力するのは少し後のことだった。

ゴジェックの創業者、ナディム・マカリム(写真:LiaoZhuangDjiu/shutterstock.com)
ゴジェックの創業者、ナディム・マカリム(写真:LiaoZhuangDjiu/shutterstock.com)
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 ナディムは、2019年5月の日本経済新聞のインタビューで、ゴジェックの設計思想について次のように語っている。「ゴジェックを配車サービスと呼ばないでほしい。ゴジェックは時間のない人が時間のある人から時間を買うサービスなのだから」と話した。忙しい消費者が、時間のあるバイクタクシーの運転手から時間を買って、移動や買い物のサービスを受ける――。ゴジェックはこのユニークな思想の下に誕生した。

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