孫正義は「メンター」、トヨタも巨額出資

 グラブが成長を続けるのに比例して、グラブに出資したいという企業が世界中から集まってくるようになった。米マイクロソフト、中国配車アプリ大手の滴滴出行(ディディ)、韓国の現代自動車と挙げていけばきりがないが、グラブが最も関係が深いのは日本企業だ。明らかになっているものだけで、約10社の日本企業がグラブに投資している。

 アンソニー・タンは日本企業との資本面や戦略面での提携を重視する理由について、次のように語っている。「まず日本は戦後、政府間のつながりも含め、東南アジアと深い関係を築いてきた。第2に私自身が武士道など日本的な考え方に親しみがあること。グラブも現場主義やカイゼンといった日本の経営理念の影響を受けている。そして何より、日本の投資家は3カ月先の利益は気にせず、30年先といった長期的ビジョンで投資するため、我々の将来性を理解してくれるからだ」

 アンソニー・タンに経営哲学を聞くと、(現場・現物・現実を重視する)「サンゲンシュギ(三現主義)」といった日本語が頻繁に出てくる。タン・フイリンも2019年に来日した際の日本経済新聞とのインタビューで、ハーバード大経営大学院で竹内弘高教授の授業から受けた影響を力説していた。グラブの日本企業や日本的経営とのかかわりは、こうした2人の創業者の思いと切っても切り離せない。

 中でも最も関係が深いのが、孫正義会長兼社長が率いるソフトバンクグループ(SBG)だ。SBGはグラブが会社設立から4年目の2014年12月に実施した4回目の資金調達(総額2億5000万ドル〈約290億円〉)で資金の出し手になって以来、2016年9月の6回目(同7億9000万ドル〈約910億円〉)、2017年7月の7回目(同20億ドル〈約2300億円〉)、上場前の最後の資金調達となった8回目(同62億ドル〈約7130億円〉)のいずれの資金調達にも主要投資家として参加した。出資比率は上場前の時点で21.7%に達していた。

 SBGが投資を続けている間、グラブは赤字を出し続け、2018年から2020年の最終赤字額だけで計92億ドル(約1兆600億円)に達していた。3年間で1兆円規模の赤字を出すスタートアップへの追加出資にひるむどころか、逆にアクセルを踏むことができる投資家は、世界的に見てもSBG以外にほとんどいない。別の表現を使えば、SBGのような巨額の資金供給者がバックについていたからこそ、グラブは起業から10年で400億ドル(約4兆6000億円)近い企業価値の評価を獲得できた。

グラブにはソフトバンクグループが巨額出資している(写真:Hafiz Johari/shutterstock.com)
グラブにはソフトバンクグループが巨額出資している(写真:Hafiz Johari/shutterstock.com)
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 そんなSBGの孫に対し、アンソニー・タンは尊敬の念を隠さない。孫のことを「メンター」と呼び、「将来を見据えた視点、投資した企業への徹底的な指導、仕事への真摯(しんし)な取り組みなどの面で尊敬している」と話す。ちなみに、熱心なキリスト教徒のタンにとって、もう1人のメンターはイエス・キリストなのだという。

 日本の製造業を代表する企業であるトヨタ自動車も2018年に10億ドル(約1150億円)を出資し、その後幹部を派遣した。トヨタが出資したのは、配車という新しいビジネスへの理解を深め、トヨタ自身の新たなサービスの開発に生かすという理由からだ。そのため、グラブに多くのトヨタ車を提供し、車両に搭載したデータ収集端末を通じて、走行データを収集している。1日中使われる配車サービス用の車両は通常の車両より5倍の走行距離があるため、より頻繁に車両を整備する必要がある。その分、通常の車両とは異なるデータが手に入る。

 他にも、約7億ドル(約810億円)を出資する三菱UFJ銀行が金融分野での協業を進めるなど、日本企業の大半は戦略的な提携を求めて出資している。

日経BOOKプラス 2022年6月6日付の記事を転載]

急成長企業が東南アジアで続々誕生!

東南アジアで有望なスタートアップが続々誕生している。特にグラブ、シー、GoTo(ゴジェックとトコペディアが統合)の3強は巨大で、世界中の大企業やファンドが出資や提携を求めて殺到。現地駐在経験が豊富な日経新聞記者が、大躍進の秘密を解き明かす。

中野貴司、鈴木淳著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

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