気候変動は症状であり、問題の本質はリーダーシップの欠如にある
石井菜穗子氏(以下、石井氏):ポールさんは来日(11月17日)直前に、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)、そしてインドネシア・バリ島でのG20(20カ国・地域首脳会議)と、立て続けに重要な会合に出席され、地球温暖化問題や生態系の破壊、食料システムの再構築などについて世界のリーダーたちと議論されてきました。それらを踏まえて、今、日本のビジネスリーダー、あるいは社会一般に向けて一番伝えたいことは何でしょうか?
ポール・ポルマン氏(以下、ポルマン氏):気候変動がますます深刻な問題となり、多くの人々がそれに苦しみ、多くの国が混乱しています。干ばつや洪水、そしてハリケーンなど、母なる自然が私たちに送っているシグナルを皆さんも感じていると思います。
この問題に対処するために、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)と呼ばれるプロセスがつくられています。日本に来る前、私はCOP27に参加しました。新型コロナウイルス禍のため今回の開催は1年遅れましたが、COPではもう28年間も議論しています。にもかかわらず、気候変動の脅威を減少させるための合意には、残念ながら至っていません。
私たちは取り組むべき問題のほとんどに気づいていながら、何らかの理由でそれに対してアクションを起こせないでいます。つまり、気候変動や不平等、生物多様性の破壊などは問題の「症状」にすぎず、本当の問題はリーダーシップの欠如にあると言えます。そして、そのリーダーシップを妨げているのが、貪欲さ、無関心、利己主義です。国や企業が自分たちの利益だけを考えようとする限り、問題の解決に到達することはできません。
石井氏:COP27は小さな成果はあったものの、全体としては残念な結果に終わってしまいました。
ポルマン氏:政府レベルでこれほど困難な状況にあることを知ったとき、私のメッセージはとてもシンプルです。「もし自分が何かできる立場にあるのなら、その穴を埋めるために立ち上がるべきであり、民間企業こそ、今、物事を解決するための最大の鍵を手にしている」
企業は世界経済の65%、世界の雇用創出の80%、金融の流れの95%を占めています。「2050年まで気温上昇1.5度以下」の目標と、SDGsを達成するためには、企業のプロアクティブ(先見的)な意思決定と行動が欠かせません。一部の企業は動き出していますが、そのスピードは十分ではありません。
今、世界の企業で起きていることは、リーダーが勝ち、後れをとる者は負ける、の二者択一です。勝者と敗者の間には、何もありません。これだけ変化が激しいと、法律が変わるのを待っていては致命的に遅れてしまいます。リーダーとなるには、国が動くよりも少し早めに正しい側に立つことが重要です。そうすることで、将来に向けてより良いポジションを確保でき、そこにあるチャンスをより早く捉えられます。
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