赤字になる健康保険組合が急増中だ。健保組合が赤字に転落すると、保険料率の引き上げを迫られ、料率が10%を超すと解散の危機を迎える。2022年から団塊の世代が後期高齢者となり、高齢者医療を支えている健保財政の悪化は必至だ。健保組合を救う術はあるのか。『ビッグデータが明かす 医療費のカラクリ』(日経プレミアシリーズ)の著者で、アライドメディカル取締役の油井敬道氏に聞く。連載第1回。

高齢化の進行で健保収支が悪化

健康保険組合の財政が悪化し、赤字組合が増えています。

油井敬道氏(以下、油井) 健康保険組合連合会(以下、健保連)は、決算が赤字になる健保組合の割合が2021年度は前年度から約20%増え約53%になる見込みと22年10月に発表しました。過去5年はほぼ30%台でしたから、急激な悪化です。

赤字組合が増えた理由は?

油井 新型コロナウイルス禍における受診控えの反動で受診者が増加したことや、高齢者医療への財政支援が急増したためでしょう。働く現役世代である企業健保は、収入の4割以上が前期・後期高齢者医療への財源に回されるので、社会全体の高齢化が進めば収支は悪化します。

油井さんは健保財政に関心を持ち、蓄積した電子カルテデータから、なぜ医療費が高くなるのか、その仕組みを解明しました。

油井 私たちが開発した電子カルテには数千万人の患者データがあります。これを基に個人情報を保護して抽出した、25年間、61万人分の生活習慣病患者のビッグデータを調べました。そうすると、同じ程度の治療でも病院によって費用がかなり違うことが分かり、その違いが何に根差しているかを分析しました。こうした医療費のカラクリを広く理解してもらいたいと、『ビッグデータが明かす 医療費のカラクリ』(日経プレミアシリーズ)を執筆しました。

健保は医療費をチェックしている

医療費のカラクリが分かれば、健保財政は改善できますか。

油井 それを話す前に、私たちが払っている医療費について、健保などの保険者が、妥当な請求かどうかを審査していることをご存じですか。保険者は、医療機関や薬局から請求された治療費・薬代がその病気の治療目的に合っているかどうかを審査しています。

 健保組合はルールに沿っていれば請求通り支払いますが、この審査には、薬代や診療頻度に問題はないかなどは含まれていません。同じ治療目的の薬でも種類は数多くあり、値段が数倍高いものもあります。しかし、あえて高い薬を使う意味はあるかということなどは審査されません。

高齢化の進展で医療費の膨張が止まらない(写真/shutterstock)
高齢化の進展で医療費の膨張が止まらない(写真/shutterstock)
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薬の価格は国が、診療頻度は医師がチェックしているのではないですか。

油井 その通りです。問題なのは、患者が受けた医療サービスが金額に見合うのかどうか、保険者も患者も分からないという点です。例えば患者数の非常に多い生活習慣病は、多額の医療費を使っています。その費用が受けたサービスに見合っているのか患者は知るべきですが、現実には分かりません。

 しかし、多数の患者が受けた治療のデータを保有している保険者が、医療の本当の価値を正しく評価し、コストなどの面で非効率な点があると分かれば、それを正すことによって医療費を下げられるかもしれません。

医療費を下げたら、医療の質が低下して問題が起きませんか。

油井 もちろん、医療費は国民の幸せのために使われるものですから、質の低下を招いてはいけません。ただ、高齢化の進展などで医療費が膨れ、少子化や不況によって保険料を負担する現役世代の余裕がなくなれば、健保財政は苦しくなります。その場合、健保は加入者を増やすか、医療費を減らすか、保険料率を上げるかの検討をせざるを得ません。

加入者を増やすにも、生活習慣を改善して医療費を減らそうにも、限界がありますね。

油井 結局のところ、保険料率を引き上げる健保が増えています。07年度に平均7.3%(決算値)だった健保連の保険料率は、翌年に高齢者医療制度が導入されて以降ジリジリ上がり、21年度は平均9.23%(決算見込)です。料率が10%を超えれば、組合を解散すべきかどうか考える、いわゆる「解散の影」に入るといわれています。

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