アウトパフォームしない現実

 バークシャー・ハザウェイも2018年から方針転換をして積極的に自社株買いに取り組んでいるのは、前述の通りだ。その軌跡は図表2に示している。しかし、バークシャーの株価(A株)は2017年末の29万7600ドルから2022年10月17日の41万9101ドルへ40.8%上昇しただけ。

 すごく上がっているじゃあないかと言われるかもしれないが、この間に配当込みS&P500は5212.76から7804.33へ49.7%上昇しており、バークシャーは流れに乗れなかったのだ。この4年9カ月間余りの比較だけで結論めいたことをいうのは尚早かもしれないが、自社株買いが本当に奏功していれば、S&P500を上回る上昇率を記録していてもいいはずだ。

図表2 バークシャー・ハザウェイの自社株買いの金額と期末上場株式数
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 もう1つ、米国で自社株買いに積極的な銘柄100社の株価推移を追いかけるS&P500自社株買い指数というものがある。この指数の過去10年間の推移をみると、親指数のS&P500の上昇率を上回ったり、下回ったり、局面によってパフォーマンスは様々だ。自社株買いをすれば株価が上がるなどと単純にはいえないことが分かる。

 自社株買いは市場での株式の買いを伴うから、株高に結び付くという連想が働きやすい。自社の先行きが明るいことを知っている企業自身が割安だと考えて買うのだから、買い場であることを示すシグナルだという説明をする人もいる。しかし、大量に買いを入れている短期的な局面はともかく、中長期に株価が上がるわけではないことは、図表1にも端的に表れている。最初の前提が間違っているのではないかと感じざるをえない。

日経BOOKプラス 2022年11月22日付の記事を転載]

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物価高や円安の株価への影響、真価が問われる東証プライム市場やガバナンス効果の動き、NISAが誘う長期・分散・積み立て投資の現実、「投資の神様」バフェットの買い出動の結果など、株式市場の世界を取材歴40年のベテラン証券記者が、取材とデータ分析をもとに独自の切り口で解説。

前田昌孝著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)
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