バフェット氏が宗旨替え?
米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が2022年2月26日に、自らが率いる投資会社バークシャー・ハザウェイの株主に宛てて書いた「株主への手紙」の2021年版を読んで、驚いたことがある。発行済み株式の5.55%を保有するアップルの積極的な自社株買いを大絶賛していたのだ。
「アップル株の保有比率は1年前の5.39%から5.55%に高まった。わずかな増加(スモール・ポテト)に見えるかもしれない。でも考えてみてほしい。アップル株の保有が0.1%ずつ増えることは、利益の持ち分が1億ドル増えるのに等しいのだ。しかも当社はこのために何ら追加投資をしていない。アップルの自社株買いがこれを実現させたのだ」
もう1つ驚いたことがある。バークシャー・ハザウェイの米国株投資ポートフォリオのうち、アップル株が占める割合は41.7%(2022年10月17日現在の推定値)と極めて大きいものの、一般には投資会社の投資戦略の一環として保有しているものと理解されている。ところが、「株主への手紙」でバフェット氏は「アップル」を保険事業や貨物鉄道事業と並ぶ一事業に格上げしたのだ。出資比率は5.55%だから、現実のことではないが、アップルを子会社にしたようなイメージだ。
後者の話はともかく、なぜバフェット氏はアップルの自社株買いを手放しでほめたのだろうか。実はバークシャー・ハザウェイはもともと自らの自社株買いに慎重だったが、2018年にアップルをみて、積極的に転じた経緯がある。株価が1株当たり純資産を下回るときだけしか買わないという従来規定を削除し、バフェット氏や盟友のチャールズ・マンガー副会長が必要だと認めるときはいつでも買えるようにしたのだ。
自社株買いをしなくても上がる株
しかし、バフェット氏がほめたたえたように、自社株買いが株価の押し上げ要因になるというのは、理屈ではおかしい。別に自社株買いをしようがしなかろうが、株価は上がるときには上がる。図表1はGAFAM(グーグル=アルファベット、アップル、フェイスブック=メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)の5社に、テスラ、ネットフリックス、エヌビディアを加えた米ハイテクビッグ8の上場株式数の増減と、株価倍率を示している。
上場株式数が減っているのは、自社株買いに積極的に取り組んだ表れだが、株価倍率のほうをみると、自社株買いをしようがしなかろうが、値上がりする銘柄は値上がりしている。自社株買いをすると、発行済み株式数が減少するため、1株当たり利益が増え、株価の押し上げ要因になるというのは、自社株買いが株価上昇に結び付く理屈としてよく語られることだが、1株当たり利益が増える理由は自社株買いだけではない。将来に向けて事業拡大のための投資をして首尾よくいっても1株当たり利益は増えるのである。
企業の手元資金の使い方として、自社株買いだろうが将来への投資だろうが、それが的確ならば株価の押し上げ要因になり、疑問を感じさせるようなものならば株価を押し下げる、と考えたほうがいいのではないか。
「そうはいっても将来への投資は1株当たり利益が増えるかどうか分からないが、自社株買いの場合はいくら増えるか計算すれば、すぐに分かる。だから株価の押し上げ要因として、より確実ではないか」と主張する向きもあるだろう。
しかし、株価純資産倍率が1倍を超える局面で自社株買いをすれば、1株当たり純資産は減少してしまう。理屈ではこれは株安要因である。自社株買いは1株当たり純資産の減少を無視して株高要因だと主張する向きが大きいが、将来への投資が実を結べば1株当たりの利益も純資産も増加する。後者のほうが株価の押し上げ要因としてより正当であろう。
Powered by リゾーム?