ドロップボックスの成長はユーザーの分類から始まった
ネット企業では、社内に「グロース部門」を置くことが一般的になりつつあるが、以前のドロップボックスには反発もあった。ドロップボックスのような製品開発に重点を置く会社は、優れた製品開発こそがユーザーを惹きつけるために重要だと考える。グロース対策として、最先端の機能をつくれる優秀な開発者をランディングページやメール通知の最適化に当たらせるのはどうなのか、と思うのだ。テック企業では顧客獲得を担うマーケティングチームからも、仕事内容が重複するグロースチームをわざわざ置く理由は何なのかと反対が出る。とはいえ、効果はある。そうでなければグロース部門をつくる企業が年々増えたり、業界全体に広まったりしないだろう。
ドロップボックスのグロース部門はすぐに活動を開始した。料金案内ページの最適化からストレージ容量の上限をユーザーに知らせて有料プランを勧める仕組みまで、マネタイズの施策を次々と打ち出したのである。初めは小さなデザイン変更で数百万ドルも売上が増えることもあった。
さらにグロース部門はこうした施策と並行し、ユーザーについて分析しはじめた。ここで重要な洞察を得る。「ツール・ネットワーク戦略」に沿ってドロップボックスを使い始めた一部のユーザーはストレージというツールだけを利用し、他のユーザーとフォルダや書類を共有していなかったのである。一方、誰かと共有し、共同作業をしているユーザー(つまりネットワークの機能を使うユーザー)の価値は、時間の経過とともに高まることが判明した。ユーザーの質を知る重要な指標が見つかり、ドロップボックスはユーザーをHVA群(高価値活動)とLVA群(低価値活動)に分けるようになった。そしてこの指標をマーケティング手法や企業提携の戦略と重ね合わせ、HVA群のユーザーを対象とした施策に注力した。CEOのドリュー・ヒューストンは戦略の転換についてこう説明している。
「当初、『インターネットを使うすべての人』にサービスを提供することが使命と考えていたけれど、あるとき、全方向には戦えないと気づいたんだ。そしてドロップボックスの最も価値あるユーザーは、長編映画などを共有している未開拓の市場の人たちではなく、書類の共有など仕事で利用している人たちだとわかった」
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