「ツールで誘って、ネットワークで引き留める」はネットワークサービスの立ち上げと拡大の際に使われる定番の戦略である。最初に優れた「ツール」、つまりひとりからでも使える便利な機能を用意する。そこから徐々に「ネットワーク機能」(ユーザー同士のやり取り、シェア、コミュニケーションなどで他のユーザーと交流する機能)を紹介して移行してもらうというものだ。この戦略の説明にぴったりな事例を紹介しよう。
話はアプリストアの黎明(れいめい)期にまでさかのぼる。
iPhoneは当初、アプリの数がそう多くなかった。サービス開始から2年以内に公開されたアプリは5万ほど。今の数百万と比べるとはるかに少ない。しかし、その中でも急成長するアプリがあった。写真好きな2人の若い起業家が設計、開発し、2009年9月に公開したアプリだ(どのアプリか想像してほしいのでここでは名前を伏せておく)。
このアプリは何を成し遂げたのか。今では当たり前のスマホ写真のスタイルを確立した。写真にかっこいいビンテージ風の写真フィルターを適用し、SNS向けに美しく、シェアされやすい加工を施せるようにしたのだ。アプリはすぐに何百万回とダウンロードされ、ニューヨーク・タイムズ紙にも載った。初期ユーザーからの評価も上々だった。ウェブメディア「ポケットリント」はこのアプリの初期のコミュニティマネジャーを務めたマリオ・エストラーダの言葉を紹介している。
「開始1カ月で人気に火がつき、いくつかの国のアプリランキングでトップ10に入り、加工した写真がフェイスブックに投稿されているのを目にするようになった。このコミュニティを取り込み、ユーザーが写真を投稿できるコンテストを用意すべきだと気づいたんだ。反響は驚くほど大きく、アプリはつくり手以上に大きな存在になっていた」
新しいプラットフォームの黎明期に登場したキラーアプリ。何百万人ものユーザーを獲得し、競合他社を大きく引き離した。大成功したに決まっている。そう思うだろう。
このアプリの名は……「ヒプスタマティック」だ。そう、インスタグラムじゃない!
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