8割超の写真にはフィルターが使われていない

 興味深いことに、インスタグラムの最初の数カ月間、ソーシャル機能は重要ではなかった。開始から6カ月後にアナリティクス企業、RJメトリクスがテッククランチに寄稿した記事によると、インスタグラムユーザーの65%が他のユーザーを誰もフォローしていなかったことが判明したという。ユーザーを惹きつけていたのは主に写真の加工機能であり、「インスタグラムの220万人のユーザーは、1週間に360万枚の写真をアップロードしている(これは1秒間に6枚の写真に相当する)」とのことだった。

 つまりインスタグラムは当初、ヒプスタマティックに代わる使い勝手のよい無料アプリとして広まった。ネットワークの力が効いてきたのはその後だ。インスタグラムは日を追うごとに成長した。ユーザーがますます増え、有名人も使い始めるようになる。

 2011年にはテニスプレーヤーのセリーナ・ウィリアムズや歌手のドレイク、ジャスティン・ビーバー、ブリトニー・スピアーズらがインスタグラムに初めて投稿している。かわいい犬や素敵(すてき)な旅先の写真を投稿するアカウントや、人気モデルのアカウントはやがてこのサービスの性質を決定づける「インフルエンサー」になる。そしてインフルエンサーや有名人、企業、ミームのアカウントを含むあらゆるユーザーがコンテンツを投稿することでますますネットワークの密度とエンゲージメントが高まっていった。フェイスブックが株式/現金と引き換えに10億ドルでインスタグラムの買収を決めたのは、サービス開始からわずか18カ月後のことである。

 写真のフィルター機能はインスタグラムが台頭するきっかけをつくったが、効果は長続きしていない。「#nofilter(フィルターなし)」というタグ付きの投稿が増えたことが表すように、時間の経過とともにフィルター機能の重要性は薄れていったのだ。最近の調査結果によると、写真の大半(82%)にはフィルターが使われていない。開始からから8年以上たった現在、ユーザーはツールではなくネットワークのためにサービスを利用していることがわかる。

 フェイスブックによるインスタグラムの買収はテック業界の優れた買収案件のひとつに数えられる。買収されていなかったらインスタグラムの価値は数十億ドルになっていただろう。今は10億規模のアクティブユーザーを抱え、フェイスブックの傘下ブランドとして200億ドルの売上を上げている。よい投資に違いない。

(写真:Shutterstock)
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(翻訳=大熊希美)

日経BOOKプラス 2022年11月16日付の記事を転載]

インスタグラム、エアビーアンドビー、ドロップボックス、ウーバーなど、急成長するシリコンバレーのサービスが必ず持っているもの――それが、ネットワーク・エフェクトです。ただし、うまく使いこなせなければ、時にサービスを破滅にも向かわせてしまう危険な戦略でもあります。その全貌をシリコンバレーのトップベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーであるアンドリュー・チェンが解説します。

アンドリュー・チェン(著)/大熊希美(訳)/日経BP/2420円(税込み)
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