写真フィルターで惹きつけ、ネットワーク機能で急成長
ヒプスタマティックは米国ウィスコンシン州出身のライアン・ドースホーストと友人のルーカス・ビュイックが開発したカメラアプリである。スマホの写真撮影への世間の関心の高さを証明するアプリだった。アップルは2010年、優秀なアプリを表彰する「アプリオブザイヤー」でフリップボード、プランツバーサスゾンビ、オズモスと並んで、ヒプスタマティックを表彰している。
ユーザーもヒプスタマティックで加工したレトロ風の写真を気に入っていた。iPhoneで使える最初期のアプリだったこともあり、ダウンロード数が伸びたのだ。しかし、ヒプスタマティックには使いづらい部分があった。仮想のカメラレンズをスワイプで切り替えてフィルターをかけるのだが、複数回タップしないと加工した写真を見られない。ニューヨーク・タイムズ紙はこう書いている。「ヒプスタマティックは写真が切り替わるのに10秒程度待たなければならない。だからその分、結果がよくないと満足できないのだ」。アプリは1.99ドル。加工した写真はスマホにただ保存されるだけで、SNSに投稿するには手間がかかる。こうした問題点は、新たな競合の出現と成長を許すこととなった。
ヒプスタマティックが大成功を収めた同じ年、インスタグラムを立ち上げたケビン・シストロムとマイク・クリーガーはサンフランシスコのオフィスで「バーバン」というサービスを開発していた。2人が立ち上げたスタートアップは2010年、トップベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツをはじめとする複数の投資家からシードラウンドで50万ドルを調達している(私が入社する前の話だ)。
開発していたのは、特定の場所へチェックインしたり、友人と遊びの計画を立てたり、写真をシェアしたりする機能を備えたブラウザで使うサービスだった。機能は豊富だったが、問題に直面する。バーバンの開発を始めて数カ月がたった頃、サービス内容が複雑で使いづらく、さらに当時急成長していた位置情報共有アプリの「フォースクエア」と真っ向から競合していたのだ。機能を絞り込まなければならない。2人は最も便利な写真機能を残し、それ以外をすべて削(そ)ぎ落とすことに決める。シストロムはこう振り返る。
「ひとつのことに特化したアプリをつくりたいと思ったんだ。それでカメラアプリを試そうと、1週間かけて写真撮影に特化したプロトタイプを開発した。でも、これは失敗だった。そこでもう一度バーバンに戻り、iPhoneのネイティブアプリにしようとした。アプリは完成したが、あまりに機能が多くてごちゃごちゃしていた。
ゼロからやり直すのは本当に難しい決断だったけれど、そこは思い切って、バーバンのアプリにあった写真撮影の機能とコメント、「いいね!」以外をすべて削ることにした。そうしてできたのがインスタグラムだ。名前を変えたのは、その方がアプリの機能をよく表していると思ったからだよ。インスタントの電報のような感じがするし、カメラっぽさもある」
インスタグラムには最初からネットワーク機能があった。ユーザーのプロフィール、フィード、友達リクエスト、招待など今どきのSNSの機能がしっかり備わっていた。さらにフィードで人気コンテンツを閲覧できるようにしたり、投稿できる写真は640x640ピクセルの正方形に限定したりした。フェイスブックへの投稿機能もあったが、すべてインスタグラムのリンクも含まれている。おかげで口コミによる成長が加速した。
写真フィルターにはヒプスタマティックのような本物のカメラ風のデザインではなく、もっと直感的に使えるものを採用した。フィルターをタップするとすぐに適用される。そして無料で使えたことも大きかった。
インスタグラムはヒプスタマティックが証明した成功要素にネットワークを加えたことで、すぐに成果を上げた。2010年10月6日、インスタグラムがアプリを公開すると、その週の終わりには10万ダウンロードに到達した。2カ月後には100万ダウンロードを突破し、そこから先も成長する一方だった。今でも急成長を続けている。
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