今、リアルでもインターネットの世界でも、人の話す「声」が大きな力を持っています。人気のネットコンテンツでも、聴覚メディアの先駆者であるラジオでも、声は人の好き嫌いに影響を与えます。その声の研究が進んでいます。高い声と低い声、話すスピードが速いのと遅いのとでは、どちらが人に好感を持たれるのでしょうか。本連載は新刊『SENSE インターネットの世界は「感覚」に働きかける』の一部を抜粋し、紹介します。

低音が一番「いい声」

 心理学や言語学の研究によると、低音の声は高音の声よりも好意的に評価される傾向にあります。イギリスの言語学者のアンドリュー・リン氏が2008年に手がけた研究によると、「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ役で知られる故アラン・リックマンの声が「理想の声」とされています。彼も低音の声ですね。

 興味深いのは国や言語を問わず「いい声」=「低い声」と認識されている点です。例えば、お笑いコンビの麒麟の川島明氏は自身の声を「ええ声」とネタにしていますが、彼の声もバリトンです。そこに私たちが違和感を抱かないのは「ええ声」のイメージが低い声だからでしょう。ですから声の分野では、言語的な特性や文化的な違いを超えて、普遍的な影響力があると考えられます。

 「いい声」、「低い声」、「高い声」に関する研究は1970年代から1980年代にかけて盛んに行われていました。

 ある実験では、甲高い声の話者は低い声の話者に比べて、真実味に欠け、協調性に欠け、力強さに欠け、神経質であると判断される結果が得られています。また、同年代を対象に行われた別の研究では、声が高くなると話者の能力が低く、善良ではないと感じられたということも分かっています。話した内容そのものにも話し手の印象にも、声の高さが大きく影響しているのが理解できます。

 噓をついているときの音声の特徴を調べた研究もあります。それによると、噓をついているときは声が高くなる傾向にあります。サスペンスドラマで噓をついている登場人物の声が上ずるシーンがありますが、まさにあれです。

 これらの研究は、声の高さとストレスや神経質、恐怖などの関連性を示唆しています。ですから、低音の声はストレスや神経質、恐怖と関係がないと判断されやすいですし、真実を語っている可能性が高いとも判断されやすい傾向にあります。

 ここで、気をつけなければいけないのは、これを判断するのは、「受け手」であるという点です。発する側の責任で信頼性が左右されるのではなく、受け手の情報処理だという点がポイントです。

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