暗号資産イーサリアムを弱冠19歳にして2013年に創案し「若き天才」と称されるヴィタリック・ブテリン。彼はプログラマーであると同時に、ブロックチェーンおよび暗号資産のあり方を2011年から取材・執筆してきた著述家でもある。イーサリアム誕生前夜から現在までの彼の著述をまとめた書籍『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』から、非中央集権化に関する考察を一部抜粋・再構成して紹介する。

(第1回から読む)
(第2回から読む)
(第3回から読む)

 「非中央集権化(decentralization)」は、暗号経済の世界で特に多用されている言葉のひとつで、ブロックチェーンの存在理由そのものとまでいわれることも多い。だが、定義が曖昧な単語の筆頭でもある。これまで、何千何万という研究の時間と、膨大な金額に相当するネット上のマシンパワーが、非中央集権化を達成する目的で、そしてそれを保護し改善するために費やされてきた。議論が紛糾してくると、あるプロトコルの推進派は、対立する相手を糾弾するとどめの一撃として、「中央集権的」という言葉を使うのがお決まりの展開だ。

 だが、この言葉の本当の意味については、かなりの混乱が頻繁に見受けられる。たとえば、次の図もそうだ。後述するように役に立たないのだが、不本意ながら、あちこちで見かける。

中央集権型、非中央集権型、分散型を示した図の例(『イーサリアム』130ページより)。出典は、ポール・バランの「On Distributed Communications(分散型通信について)」(ランド研究所、1964年)
中央集権型、非中央集権型、分散型を示した図の例(『イーサリアム』130ページより)。出典は、ポール・バランの「On Distributed Communications(分散型通信について)」(ランド研究所、1964年)
[画像のクリックで拡大表示]

 試しにQAサイト「クオーラ」で、「distributed(分散型)とdecentralized(非中央集権型)の違いは何ですか?」という質問に対する二つの答えを見てみよう。一つ目は、実質的に先の図を繰り返しているだけだが、二つ目はまったく違う考えを展開している。「distributed(分散型)とは、トランザクションの処理が1か所だけでは実行されないこと」で、「decentralized(非中央集権型)は一つの実体がすべての処理を管理しないこと」という答えだ。ところが、別のQAサイト「スタック・エクスチェンジ」にあるイーサリアムページでは、よく似た図を使って説明しているものの、なんと「distributed」と「decentralized」の指すものが入れ替わっている。どう考えても、明確な説明が必要だろう。

イーサリアムを創案したヴィタリック・ブテリン氏(写真:Shutterstock)
イーサリアムを創案したヴィタリック・ブテリン氏(写真:Shutterstock)
[画像のクリックで拡大表示]

次ページ 3種類の非中央集権化