ヴィタリック・ブテリンは2013年11月ごろ、ブロックチェーン技術が社会に大きな影響を及ぼす基盤になり得ると認識し、イーサリアムの原案といえる「イーサリアムホワイトペーパー」を書き上げた。その抜粋ともいえる「イーサリアム―次世代の暗号資産と分散型アプリケーションのプラットフォーム」の章から、イーサリアムの特徴を示す記述をお届けする。これは2014年1月に「ビットコインマガジン」で公開されたものであり、当時からマイニングを必要としない合意形成方法(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を検討するなど、現在への展開が正常進化であることが見てとれる。
ビットコインに足りないもの
ビットコインに触発されながらも、その基礎となる技術を通貨にとどまらない目的で使おうとする新たな暗号技術ネットワークともいえる「暗号資産2.0」プロトコルの多くには、共通する設計上の哲学がひとつある。インターネットと同じように、暗号資産の設計はプロトコルを複数の層(レイヤー)に分割するとうまく機能するという考え方だ。この発想に従えば、ビットコインは暗号資産エコシステムにおけるTCP/IPのようなものと考えることができる。そして、メールならSMTP、ウェブページならHTTP、チャットならXMPPというように、ビットコインの上層に次世代のプロトコルを構築することができる。そのすべてが、TCPを共通基盤のデータ層として、その上に成り立つのである。
ビットコインにおいても、プロトコル(カラードコイン、マスターコイン、カウンターパーティー)は存在し、そのプロトコルを支えているアイデア自体が悪いということではない。アイデアは素晴らしいし、コミュニティの反応を見ただけでも、必要性の高い試みであることは間違いない。問題はむしろ、上位プロトコルの基盤にしようとしている下位プロトコル、つまりビットコインそのものが単にこの目的に向いていないという点にある。
ビットコインが悪いのではないし、ビットコインの革新性を否定するわけでもない。価値を保存し移動するプロトコルとして、ビットコインは優れている。だが、効果的な下位プロトコルかどうかと考えると、ビットコインではもの足りない。HTTPの基盤にできるTCPではなく、どちらかというとビットコインはSMTPのような存在なのだ。つまり、意図した役割(SMTPの場合はメール、ビットコインの場合は通貨)は十分にはたすが、それ以外の基盤としては、それほど優秀ではないのである。
ビットコインの具体的な難点は、とりわけ、ある一点に集中している。拡張性(スケーラビリティ)だ。ビットコイン自体は、暗号資産として最大限のスケーラビリティを備えている。たとえブロックチェーンがテラバイト級に膨らんだとしても、「簡易支払い検証」(simplified payment verification:SPV)というプロトコルがある。これはビットコインのホワイトペーパーに記されており、数メガバイト程度の帯域幅とストレージしかもたない「ライトクライアント」だけで、トランザクションの完了を安全に確認できるしくみだ。
しかし、ビットコイン上に作成されるカラードコインとマスターコインではその余地がなくなってしまう。理由はこうだ。カラードコインの色を判断するには、ビットコインのSPVを使ってその存在を確かめるだけでは済まない。えんえんとブロックチェーンの最初のジェネシスブロックまで遡り、その各ステップでSPVチェックを実行しなければならないのだ。この遡及スキャンは指数関数的に膨らむこともあり、メタコインのプロトコルでは、トランザクションをひとつずつ検証する以外、方法がない。
この点を、イーサリアムは解決しようとする。といっても、スイスアーミーナイフのように何百もの機能をそろえてあらゆるニーズに応えようとするわけではない。ビットコインに代わる優れた基盤プロトコルとなり、その上に他の分散型アプリケーションを構築できるようにすること、そして多くのツールを提供して、イーサリアムのスケーラビリティと効率性を十二分に生かすことをめざしている。
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