世界最古の物語からの警告
脱炭素に向けてさまざま次世代技術の開発が進んでいます。第6次エネルギー革命の可能性も含めて、テクノロジーの進化がもたらす可能性をどう捉えていますか。
古舘:今後、全エネルギーに占める再生可能エネルギーの比率は高まっていくと考えられますが、太陽光発電には大規模な用地と大量の資材を必要とし、土地の占有と将来的な廃棄物の増加という問題があります。火力には温暖化ガス排出の問題があり、原子力は安全性や高レベル放射性廃棄物の問題をクリアしなくてはなりません。
水素(グリーン水素)は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを使って発電し、その電力を利用してつくることができますが、水素をつくるためにエネルギーの投入が必要になるため効率が悪くなります。
いずれも一長一短があるため、再生可能エネルギーを中心としつつも、複数のエネルギー源を特性に応じて使い分け、まさにエネルギーミックスで乗り切るほかありません。その上でこの先重要なのは、限りあるエネルギーを今まで以上に大切に使うという私たち一人ひとりの意識であり、問われているのは私たちの覚悟だと思います。
エネルギー問題の解決につながるテクノロジーとして、この先ゲームチェンジャーとなり得るのは、核融合反応による原子力エネルギー技術の実用化です。ただ、技術的に乗り越えなければならない壁が厚く、今世紀末までに普及が進めば御の字だと思います。気候変動問題は待ったなしの状況ですから、それまでの間は既存の技術でどう乗り切るかを考えなくてはなりません。
際限のないエネルギー獲得を欲する私たちの脳、我々に内在するエネルギー消費を増大させる本性を、うまくコントロールしなければならないということですね。
古舘:そこが非常に重要なポイントです。脳をあまり自由に解放せず、理性でどうコントロールするかです。世界最古の物語として有名な「ギルガメシュ叙事詩」(紀元前1300~1200年ごろ)に、森の守り神フンババを打ち倒して、森林伐採を進めたギルガメシュ王の話があります。金属製の斧(おの)を携え、最高品質のレバノン杉を切り倒していく王は、文明社会の象徴です。しかし、森の乱伐は神の逆鱗(げきりん)に触れ、人々はその後、7年にわたって飢饉(ききん)に苦しんだという話です。
この物語を書いた人たちは、文明社会がいったん森に分け入れば、森は破壊され続け、その結果、洪水の頻発や土地の砂漠化などのしっぺ返しを受けることを経験から知っていたのだと思います。人類は木を切り続ければ何が起きるかを知っていながら、森林伐採の誘惑を止めることができませんでした。そうして豊かな土地を失っていったのです。
これは化石燃料を大量に消費し、地球温暖化を止められない現代とまったく同じ構図だと思います。気候変動に関してはいまだに懐疑派の人たちがいますが、化石燃料は遅かれ早かれ必ず枯渇する運命にあるので、気候変動を深刻と捉えるかどうかにかかわらずどのみち化石燃料に頼らないエネルギー消費のあり方を考えていく必要があります。だとしたら、温暖化についての危機感が高まっている今こそ、エネルギー資源枯渇の問題に対して対策を考え、行動する絶好の機会ではないでしょうか。
[日経BOOKプラス 2022年11月15日付の記事を転載]
本書は、2030年ごろまでのおよそ10年の間に、企業とサステナビリティに関して何が起きるのか、「未来の見方」を示した上で業界別に予測し、企業がどこに向かうべきかの具体的指針を示します。「投資判断の考え方」を示す「SXの方程式」や、起こり得る複数の近未来を提示する「シナリオ・プランニング」を使って、これからの10年間を一足先に体感してもらうという野心的な試みをしています(SXは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略語)。環境・社会課題を解決しながら企業価値を高めていくにはどうしたらよいか、本書でお伝えします。
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