無形資産に投資し、「タメの利いた」経営を目指す

坂野:暗黙知を形式知化し、さらに新たな知識を生み出していくことが、成長のスピードを速めるということですね。ブランドにしろ、知識にしろ、企業固有の無形資産が、将来の利益の源泉になるということですから、無形資産への投資がますます重要になります。

名和:かつての日本企業はそれを強みとし、野中郁次郎先生(一橋大学名誉教授)が日本企業の知識創造プロセスを「SECIモデル」によって説明したのですが、その後、日本経済は坂道を転げ落ちていきました。何がいけなかったかというと、「舶来病」だと私は考えています。

 舶来病は「グローバルスタンダード病」と言い換えてもいいのですが、ショートターミズム(短期志向)という株主資本主義の悪いところを取り込んだため、四半期決算や単年度業績ばかりを気に掛けて、将来を見据えた「タメの利いた」経営ができなくなりました。株主還元を増やす一方で、無形資産への投資をしなくなったのです。

磯貝:短期の売り上げやコスト削減を追求するあまり、未来の稼ぐ力が衰えてしまったという見解に、私も同意します。日本企業はその現実を直視するためにも、従業員エンゲージメントスコアやブランド価値など非財務のKPIを注意深く見ていく必要があります。

磯貝友紀氏 PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス テクニカルリード。2003年より民間企業や政府機関、国際機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。2011年より現職。著書に『SXの時代』『2030年のSX戦略』(共著、いずれも日経BP)
磯貝友紀氏 PwC Japanグループ サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス テクニカルリード。2003年より民間企業や政府機関、国際機関にて東欧、アジア、アフリカにおける民間部門開発、日本企業の投資促進を手がける。2011年より現職。著書に『SXの時代』『2030年のSX戦略』(共著、いずれも日経BP)
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名和:米国の代表的な株価指数である「S&P500」の対象銘柄では、時価総額に占める無形資産の割合が2020年で9割に達しましたが、日本の「日経225」銘柄では2000年代初頭に5割ほどだった無形資産の割合が3割に低下しています。

 無形資産を軸に将来価値を現在価値に結び付ける「価値創造の方程式」を設計し、その創造ストーリーを投資家にきちんと説明できれば、企業価値を高める余地はいくらでもあります。

日経BOOKプラス 2022年5月23日付の記事を転載]

「10年先の企業経営」を先取りするための戦略書

 本書は、2030年ごろまでのおよそ10年の間に、企業とサステナビリティに関して何が起きるのか、「未来の見方」を示した上で業界別に予測し、企業がどこに向かうべきかの具体的指針を示します。「投資判断の考え方」を示す「SXの方程式」や、起こり得る複数の近未来を提示する「シナリオ・プランニング」を使って、これからの10年間を一足先に体感してもらうという野心的な試みをしています(SXは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略語)。環境・社会課題を解決しながら企業価値を高めていくにはどうしたよいか、本書でお伝えします。
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