磯貝:ブランド価値で先行している企業をまねても、自社のブランド価値を上げるのは難しいと言えます。先進企業の後追いだけでは、いつまでたっても追い越せません。他社とは違う切り口、自社ならではのやり方で環境・社会課題の解決を図り、そこに経営資源を投入する必要があります。
名和:私はイケてる「志」の要件を、「ワクワク」「ならでは」「できる!」の3つで表現しています。社員や顧客が「ワクワク」し、自社「ならでは」のものであり、自社のリソースで実践「できる!」と確信を持てる。
企業が間違えやすいのは、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標から自社の重点課題を見つけようとすることです。しかし、これらは市場に受け入れてもらうための前提条件であり、「規定演技」にすぎません。他社との差異化や企業価値向上につながるのは「ワクワク」「ならでは」「できる!」の3要件を満たす18番目の「自由演技」です。
真に解決すべき環境・社会課題は、簡単に解決できないから課題として残っているわけで、この3要件がそろっていないと情熱が続かず、「コストが高いからやめておこう」といったように途中でくじけることになります。
「サステナビリティに貢献しない事業はやらない」を軸に
坂野:環境・社会課題の解決につながる新しいビジネスモデルに移行するとしても、課題解決ビジネスは投資回収に時間がかかるため、既存の事業で利益を出しつつ、うまく事業ポートフォリオを入れ替えていく必要があります。例えば、オランダの化学大手DSMは、10年以上をかけて事業ポートフォリオの新陳代謝を進め、環境負荷の高い石油化学事業から、栄養食品、医薬品原料、環境負荷の低いプラスチックや樹脂などの製造に転換しました。企業はこの先、このような大きなトランジション・ジャーニーを乗り切っていかなければなりません。
名和:大切なのは、経営者が「志」を基に、正しい事業ポートフォリオを選択することです。DSMの経営陣は、たとえ短期的にもうかっても地球や人類のサステナビリティに貢献しない事業はやらないと決め、社会に対してよいインパクトを与えると同時に利益を生み出せる事業モデルを考え抜いているそうです。長いトランジション・ジャーニーを乗り切るには、こうしたぶれない姿勢が重要です。
その上で、成長によって利益を生み出すには、事業を迅速にスケールさせる必要があります。ここが苦手な日本企業が多いのが残念です。日本企業は、社員の創意工夫によって職人芸化する「たくみ(匠)」の強さはあるのですが、「たくみ」は属人的であるため、再現性や拡張性、移転性がありません。
これに対して、欧米企業は経営とは「しくみ(仕組み)」化だと考えているので、デジタルを駆使した「しくみ」化のレベルや実行のスケールとスピードは日本企業より優れています。ルーティン化した仕事については、「たくみ」を「しくみ」にどんどん落とし込んで、人はさらに先の「たくみ」を磨き込む。これを素早く繰り返すことで、事業を迅速にスケールさせることが日本企業の課題です。
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