サステナビリティは「見える化」がカギ
名和:今後、企業には、デジタルを活用してサプライチェーン全体をトレースできるようにすることが求められます。サプライチェーンのどこで、どれくらい環境負荷や外部不経済(編集部注:企業の経済的活動は何らかの形で地球や環境、社会に負荷をかけるが、そのコストは企業の財務には反映されないケースが多い。その負荷のことを「外部不経済」と呼ぶ)が発生しているかという情報が可視化されれば、仲間をつくる上でも、消費者の意識と行動の変化を促す上でも、大きく弾みがつくはずです。
磯貝:高度経済成長期の頃は、工場のばい煙や水質汚染など外部不経済が非常に見えやすかったが、今は温暖化ガスの排出や人権侵害など、サプライチェーンのどこで何が起きているのかが見えにくくなっています。
そのため、例えば、気候変動対策がビジネスリスクの軽減や成長機会の獲得にどうつながるかも見えづらく、やるべきことに気づいてもらえないことがあります。PwC Japanでは、サステナビリティ活動によって節約できるコストや売上機会の拡大を数値化し、未来の財務にどうつながるかという「インパクトパス」を描くことを支援しています。
フードシステムに関していえば今後、「トゥループライス」や「トゥルーコスト」を可視化する動きが強まると見込まれます。これは、現在の食料システムで発生している外部不経済を織り込んだ「真の値段」「真のコスト」を計算し、可視化する試みです。
これから、トゥループライスやトゥルーコストの概念の標準化や評価方法の議論が進んでいきます。すでにドイツでは、商品に販売価格と共にトゥループライスを表示しているスーパーマーケットもあります。
生物多様性の喪失は、日常生活を直撃する
坂野:可視化すべき対象は今後、ますます増えていくと思います。その一つが生物多様性です。生物多様性とビジネスリスク・機会の因果関係を可視化するのは気候変動より難しいのですが、生物多様性が損なわれると食料をはじめとする生物由来の原材料が枯渇するだけでなく、新薬の開発などにも影響します。その意味では、人々の日常生活に重大な悪影響が及びかねません。
2022年夏に開催予定の生物多様性条約第15回締約国会議(CBD COP15)では、2030年までに取り組むべき行動目標を定める予定です。さらに、国際的イニシアチブが、自然関連のリスクと機会に関する情報開示や目標設定の枠組みを開発する動きを速めています。
現状、日本企業の多くはCO2排出削減に目を奪われていますが、生物多様性や人権(サプライチェーン上流の原材料生産における強制労働など)に関しても、国際基準に沿った取り組みが求められる日が早晩やって来ることはほぼ確実です。
(第2回に続く)
[日経BOOKプラス 2022年5月16日付の記事を転載]
本書は、2030年ごろまでのおよそ10年の間に、企業とサステナビリティに関して何が起きるのか、「未来の見方」を示した上で業界別に予測し、企業がどこに向かうべきかの具体的指針を示します。「投資判断の考え方」を示す「SXの方程式」や、起こり得る複数の近未来を提示する「シナリオ・プランニング」を使って、これからの10年間を一足先に体感してもらうという野心的な試みをしています(SXは「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略語)。環境・社会課題を解決しながら企業価値を高めていくにはどうしたよいか、本書でお伝えします。
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