「プレミアリーグ」を結成し、投資を回収
坂野:おっしゃる通りです。私たちはサステナビリティ経営のグランドストラテジーとして、外部環境の変化を適切に認識し、リスクを最小化するとともに成長を最大化するということを提案してきました。メーカーが成長の機会につなげていくために、大きくピボットするには、何が大切とお考えですか。
名和:サプライチェーンの川上にいる農業生産者から川中のメーカーや中間流通、川下の小売りまで、全体で食品ロスをなくしたり、環境や健康にとっての価値を高めたりして、持続可能なフードシステムを構築していくことが大切です。これは、メーカー単独でできることではない。フードシステムの構想力・設計力のほか、川上から川下まで、時には同業他社を仲間として巻き込んでいく共感・共創力が求められる。その根幹となるのがパーパス(志)です。
パーパスに共感した仲間と共に、サステナブルな価値を持つ食品を消費者に届ける仕組みをつくり、サプライチェーン全体でブランドを確立できれば、そのブランドに対してプレミアムを支払ってくれる「消費者という仲間」も増えていくはずです。私はこれを「プレミアリーグ」と呼んでいます。メーカーから「サステナビリティ投資は回収が困難」という声をよく聞きますが、プレミアリーグを結成できれば、サステナビリティに対する投資を回収しやすくなります。
磯貝:カナダの社会調査機関が2020年に世界27カ国で実施した調査によると、サステナビリティに関する意識はミレニアル世代以降で大きく高まります。日本では1世代遅れて、Z世代からそうした変化が生じていることが、PwC Japanグループ(以下、PwC Japan)の消費者意識調査で判明しました。さらに日本の場合、Z世代の中でサステナビリティへの関心が高い層とそうでない層が二極化しています。まずは、意識の高い層を巻き込むことがカギになりそうです。
名和:自然を大事にしたいと考える人は、どの世代にも少なくないはずです。例えば、カゴメは、八ヶ岳の山麓にある野菜ジュースの主力工場の見学ツアーや、自社農園での野菜の収穫体験会などを実施し、農業・工業・観光を一体化した野菜のテーマパーク構想を地元自治体と共同で進めています。そういう小さなところからスタートして、賛同者がSNS(交流サイト)などで広がっていくと、1が10になる流れができていきます。
磯貝:消費者のサステナビリティ意識について付け加えると、一般的に「欧州は意識が高く、発展途上国は低い」と考えられていますが、複数の調査で東南アジアやインド、アフリカなどは日本よりもサステナビリティの意識が高いという結果が出ています。
日本の大企業の経営者が、自分の世代だけ、日本だけを見ていると、世界の潮流を見誤る可能性があります。
名和:私はミレニアル世代やZ世代の人たちと地球の未来や自然について話すことがありますが、こうした話題は世代を超えて通じるものです。若い世代と会話するだけでも、いろいろな気づきを得られます。
また、私が教えている一橋大学ビジネススクールは学生の8割は海外留学生で、その大半がアジア出身者です。2割の日本人学生が留学生の価値観に触れ、感化されていくことも多い。日本のビジネスパーソンはもっと海外の人たちと交流することで、世界の価値観の変化を肌感覚として捉えるべきでしょうね。
坂野:バリューチェーン全体に発想を広げることで、リスクを機会に変えるという話がありましたが、食料自給率が低い日本の場合、世界的な食料需給のひっ迫や価格高騰によって「買い負け」の事態が発生し、食料を必要量輸入できなくなるリスクもあります。
名和:食料を輸入に依存しているのは日本だけでなく、例えば、シンガポールなど日本より食料自給率が低い国もあります。ですから、プレミアリーグを結成する際には日本だけでなく、海外にも仲間をつくる発想が必要です。資源権益の獲得ではそうした国際協調が当たり前に行われており、食料分野でも可能性はあると思います。
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