日清食品の「カップヌードル」を知らない人はほとんどいないだろう。食の常識を変えた創業者の安藤百福氏。彼に連なる安藤家の経営者たちは、破壊と創造を繰り返しながら日清食品を世界的な企業に成長させた。なぜ日清食品と安藤家は創業時からの精神を引き継げるのか。巨大ファミリー企業の真実に迫った。

 初回は、創業者の孫である安藤徳隆氏が「もう一つ日清食品をつくる」と意気込む事業が産声を上げた現場をリポートする。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)産声上げた「もう一つ日清食品をつくる」事業(今回)
(2)安藤家の系譜、しつこく挑み続ける「七転び八起き」の教え
(3)社長の思考を社員に見せる 「マーケティング会議」に潜入
(4)公募で経営人材を育てる 「ミニ社長」に託すベンチャー精神
(5)私が「カップヌードルをぶっ潰す」と言ったわけ 安藤宏基氏の信念
(6)メンター・佐藤可士和氏が語る 安藤徳隆氏の真の顔
(7)300年続く企業になるための挑戦 安藤徳隆氏が見る未来

楽天グループの本社にあるカフェテリアで「完全栄養食」の提供を始めた(写真:北山 宏一)
楽天グループの本社にあるカフェテリアで「完全栄養食」の提供を始めた(写真:北山 宏一)

 黄色地に「KANZEN MEAL(完全メシ)」と紺色で記したのぼりが立つブースがオープンすると、すぐに行列ができた。様々な年齢や性別の人たちが期待に満ちた表情で自分の順番が来るのを待っている。

 2022年5月中旬。ここは楽天グループ本社9階にあるカフェテリアだ。ブースに並んでいた楽天社員たちのお目当ては、試験導入したばかりの「完全栄養食」のメニュー。低カロリーでおいしく、体に必要な栄養素を一度に摂取できるという触れ込みだ。

 「本当においしいのか」「食べるほど健康になるなんて眉唾ではないのか」──。並んでいる人たちからは、その実力を見定めてやろうじゃないかという雰囲気も伝わってくる。

楽天の社員食堂で提供された完全栄養食のカレーライスとハンバーグ弁当(写真:北山 宏一)
楽天の社員食堂で提供された完全栄養食のカレーライスとハンバーグ弁当(写真:北山 宏一)

 「普通においしいですね」。完全栄養食版のカレーライスを食べていた男性は感想をこう話した。一度分解して糖質などを減らしたうえで再合成した合成米が使われていることを聞くと、その男性は「普通のコメと何が違うのか分からないな……」と不思議そうにご飯を見つめた。この日、用意された300食の完全栄養食はわずか数十分で完売となった。

 このメニューを提供するのは日清食品ホールディングス(HD)だ。健康のために意識的に食べるのではなく「日常的に食べたくなる完全栄養食」を目指して研究してきた。カツ丼やナポリタンなど、約300種類のレシピを開発した。どれも1食当たり500キロカロリー前後にエネルギーを抑えており、厚生労働省が日本人の「食事摂取基準」として設定した33種類の栄養素について、摂取カロリー当たり基準量を含んでいる。

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