「自律型人材」育成の先にあるのは、個々の「主体的なチャレンジ」であり、サステナブルな「人的資本力」はそれによって生み出される。自律型人材を育成するメソッドとしてのビジネスコーチングの実践を通じて、急激に変わる事業環境の中でもブレることのない育成の仕組みづくりを解説する。『ビジネスコーチング大全』の著者で、豊富なコーチング実績を持つ橋場剛・ビジネスコーチ(東京・千代田)副社長が解説。

「内省」と「ふりかえり」

 一流の指導者は、相手の魅力や想い、能力を十分に把握した上で、それを最大限に引き出し、生かすことができる人だ。これはプロスポーツの世界に限らず、ビジネスの世界においても同じである。その指導を「仕組み」として「再現可能なシステム」にまで昇華させることができれば、その人はすでに指導者として超一流と呼べるのではないだろうか。

 働き方改革に加え、コロナショックがきっかけとなり、多くの企業で1on1ミーティング(以下、1on1)が導入されるようになったことは前回までに述べてきたが、「1on1を導入する」こと自体が「育成の仕組みづくり」と言える。しかしながら、1on1を単に導入し、実践するだけでは、真の意味での育成を図ることはできない。

 真の育成のためには、本人がたどり着きたいキャリアのゴールに向けて積極的に学び、実践し、内省し、仮説を立て、改善を図り、再び実践する、という学びと実践の絶え間ない繰り返しが必要となる。仕組みづくりのポイントは「内省」と「ふりかえり」だ。

真の人材育成のためには、学びと実践、内省とふりかえり、の絶え間ない繰り返しが必要(Indypendenz/shutterstock.com)
真の人材育成のためには、学びと実践、内省とふりかえり、の絶え間ない繰り返しが必要(Indypendenz/shutterstock.com)
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 1on1では、その時々でティーチング、コーチング、フィードバック(もしくはフィードフォワード)が使い分けられていくが、いずれにしても、1on1終了後に何かしらの気づきや学びがあったり、具体的に取り組むことが明確になったりすることが望ましい。

 しかしながら、毎回の1on1が常に前向きかつ生産的なものであるとは限らない。仕事が思うように進まず落ち込んでいる部下に対して、上司が部下の話をひたすら傾聴し、理解し、受け止めて終わる、といった回も、時にはあるかもしれない。

 筆者自身も長年、多くの企業・組織に対して1on1導入支援やコーチングのスキルトレーニングを実施してきているが、業績向上や社員のエンゲージメント向上といった充実した具体的成果につなげることに成功している人・組織に共通して見られるのは、1on1や各種の育成活動をやりっ放しにせず、「いったん立ち止まって内省し、ふりかえる」ことをルーティンに組み込み、仕組み化している点だ。

 内省する方法、ふりかえる方法は無数にある。

 例えば、「週報を付ける」「日記や日誌を付ける」ことのほか、内省やふりかえりのためのアプリやクラウドサービスなどを活用する方法もある。手段はいろいろあるが、その本質はやはり、自己への問いかけと、問いかけに対して出した答えに基づいて「仮説」を立て、「実践」につなげていく仕掛けだ。

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