「破壊的質問力」を身に付ける

 多くの人は、1on1ミーティングやコーチングセッションにおいて、自分では考えてもみなかったような角度からの強烈なインパクトを与える質問を投げかけられたいと考えているものだ。この点、視座・視野・視点を「ずらす」ことを意識するだけで、他者に頼らずともそうした質問を自身の力のみで自在に繰り出すことが、ある程度可能になる。

 個人を対象として実施されるパーソナルコーチングにおいては、その対象はあくまでも「個人」だが、ビジネスコーチングが対象とするのは、組織の中における「個人」や「チーム」だ。組織の中の個人やチームを対象とする以上、コーチングの対象はクライアント個人だけではない。クライアントを取り巻く「システム」そのものを間接的に相手にすることとなる。それを、ビジネスコーチングにおける「クライアントシステム」と呼ぶ。

 クライアントシステムには例えば、社内外のステークホルダー(上司、同僚、部下、顧客、取引先等)、クライアントが在籍する組織の理念、パーパス、ビジョン、ミッションなどが含まれる。

視座・視野・視点を「ずらす」ことを意識すれば、強烈なインパクトを与える質問を繰り出せるようになる(takayuki/shutterstock.com)
視座・視野・視点を「ずらす」ことを意識すれば、強烈なインパクトを与える質問を繰り出せるようになる(takayuki/shutterstock.com)
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 ビジネスコーチングはクライアントの行動変容を支援するが、行動変容のその先には、クライアントの周囲にいる社内外のステークホルダーに対してポジティブな影響力(インパクト)を発揮していくという狙いがある。前述の「視座・視野・視点」における「視座」に、クライアントの周囲にいる社内外のステークホルダーを当てはめていくだけで、様々な立場から当該事象を冷静かつ客観的に検討することができる。

質問例1:業界の健全な発展という観点から考えた場合、どんなサービスがあれば、より顧客の満足度が高まるだろうか?

質問例2:あなたが社長だったら、今期に取り組むべき最優先テーマは何だろうか?

 「いつ、いかなるときにおいても確実に相手に『刺さる』」ような絶対的な質問は、残念ながらこの世に存在しない。なぜなら、相手が置かれている状況や相手の価値観、相手の思考の在り方によって、1つの質問が相手に与えるインパクトがまったく異なるからだ。ある1つの破壊的質問がAさんに対しては大きな気づきをもたらしたとしても、Bさんに対しては何の気づきにもつながらない、といったこともある。

 新しい価値の創造やイノベーションを起こすために不可欠なことは、物事への向き合い方を変えることであり、ステークホルダーの存在を意識した破壊的質問を自身や部下、クライアントに投げかけることは大いに役立つ。

 次回は、「自律型人材を育成する仕組みをつくる」ことについて考える。

日経BOOKプラス 2022年5月26日付の記事を転載]

自ら考え、律することのできる人財をいかに育成するか?
コーチングの理論と実践手法を総合的に解説。


結果を出す人の陰に名コーチあり。自ら考え、行動し、よりよい成果を出し続ける、サステナブルで自律型の人財をいかに育てるか。延べ10万人超、累計1万時間超のセッション実績を持つ第一人者による「コーチングの教科書」の決定版。

橋場剛(著) 日本経済新聞出版 2420円(税込み)

この記事はシリーズ「サステナブルな「人的資本力」を引き出すビジネスコーチング」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。