「ノーサイドの精神」で相手をたたえる

岩出:その後、サーベラスとも和解したと聞いていますが。

後藤:上場したとき、マスコミからコメントを求められました。おそらく、「サーベラスを打ち負かした」というコメントを期待していたのだと思う。けれども、僕はその期待に反して、次のように言いました。

 2006年、サーベラスは私たちの会社が非常に厳しい信用状況にある中で、約1000億円の増資を引き受けてくれた。その恩は忘れません。その後、緊張が高まったことがあったけれども、サーベラスがサポートしてくれたからこそ、上場にこぎ着けられたと感謝しています。

 その後、サーベラスのCEO(最高経営責任者)が来日し、当時、所沢にあった本社に来ていただきました。しっかりと握手をして、「これでノーサイドです。私は昔、ラグビーをやっていたからノーサイドという言葉が好きなんです」と伝えました。その後、サーベラスは、西武HDの持ち株をいい形ですべて売却し、資本関係はなくなりましたが、そのときに握手したCEOとは今もお付き合いしています。

岩出:まさに後藤社長の真っ向勝負とフェアを重視するラグビー精神がぐっと感じられる話ですね。逆境をきっかけに、組織の末端の毛細血管までしっかり血が通う、一体感のあるグループに生まれ変わった。西武グループの社員たちも、TOBを人ごとではなく自分事として捉え、今の自分に何ができるかを考えて行動した。だから、ピンチをチャンスに変えることができたのですね。

後藤:上意下達の指示待ち人間ではなく、社員一人ひとりがしっかりと考えて、判断できる組織は強い。

 僕は「一隅を照らす」という言葉が好きで、帝京大ラグビー部では、そういう人たちに対する目配りがされている。これが強さの秘訣の一つであり、「岩出イズム」だと思います。帝京大ラグビー部には約130人の部員がいて、試合に先発で出られるのはたった15人。ベンチに入れるメンバーを含めても23人です。でも、23人で戦っているのではなくて、「苦しいときは、スタンドにいる仲間の顔を見ろ」と岩出さんは指導している。1軍の試合には出られないけれど、陰でサポートしてくれている部員に感謝しながら、選手たちは試合をする。こういう組織は強いですよ。

 また、ラグビー部の監督が部員に対して「ラグビーばかりやっていたらダメだよ」とは、なかなか言えないですよ。けれども、岩出さんは平気で言う。

岩出:学生には将来がありますから。

後藤:30代、40代で管理職になったときの自分の姿を思い浮かべ、それをもう一つの近未来の目標にしなさいと指導している。さらに、学生が社会に出た後を見据えて、学生のうちにリーダーの予行演習をしておこうと考えておられる。これはすごいことですよ。

岩出:ラグビーはそんなに長くできるスポーツではないのに、ワールドカップで盛り上がったこともあって、プロを志向する学生が増えています。でも、希望しても全員がプロになれるわけではないし、選手を引退した後のことも意識しておく必要があります。大学選手権で優勝しても、社会に出たら役に立ちませんから。

後藤:岩出さんの本の中で、人の育て方のところも、とても共感しました。僕のやり方は、顕在化している能力の1割増しぐらいの負荷をかけてチャレンジさせる。岩出さんの本にも同じような数字が出ていましたね。

岩出:はい。スキルに見合った最適難度のことにチャレンジしたとき、人は「フロー状態」に入り、持っている能力を存分に発揮しやすくなります。その最適難度というのは、今できていることよりもレベルが1~2割上のことです。レベルが高すぎると「不安」になり、低すぎると「退屈」に陥り、持っている能力を十分に発揮できません。でも、難しいのは、指導者やリーダーがその人の潜在能力を見極めることです。それには課題やチャレンジを与える人の深い「観察」と「洞察」が必要です。ここがとても難しいところです。

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