昨日の味方が最大の敵に
岩出雅之氏(以下、岩出):私は帝京大学ラグビー部監督に1996年に就任し、大学選手権で優勝するまで13年かかりました。後藤社長は、西武グループの経営再建に着手してどのくらいで、手応えを感じましたか?
後藤高志氏(以下、後藤):僕は2005年2月に銀行から西武グループに来て、 2006年に経営改革を実行し、みんなのベクトルが同じ方向に向いていると実感できたのは、2013年ですね。だから、8年ぐらいかかりました。
岩出:実感できるきっかけは何かあったのですか?
後藤:実は2013年というのは大変な年で、最大株主のサーベラスとの間で緊張が高まったんです。彼らはファンドですから、当然、西武HDを株式上場させて、投資した資金をエグジット(投資回収)させることを考えます。
我々も早期に株式上場したいと考えていたので、その意味では、同じ方向を向いていました。だからこそサーベラスに株主になってもらったのですが、上場へのアプローチ方法が僕たちとは大きく異なりました。
上場に関して我々は「フェア」にこだわった。当時、僕が関係者によく言ったのは、ゴルフに例えると、ティーからフェアウエーに球を打って、そこからオンさせなくてはいけない。上場関連の様々な法規、会社法や金融商品取引法、あるいは東京証券取引所の規則などに抵触することはOBで、当然ダメ。サーベラスもそれは同じです。
けれども、違法ではないが、グレーな部分というのがある。ゴルフに例えれば、ラフの部分の扱いです。サーベラスは「ラフは全然問題ない」と言うが、こちらは「ラフはグレーな部分に当たり、フェアウエーじゃないとダメだ」と言い返す。我々は2004年に西武鉄道が上場廃止になって多くの方に迷惑をかけたから、コンプライアンスに関しては一点の曇りもないよう徹頭徹尾こだわった。解釈が分かれるようなグレーなやり方には同意できないとはっきり言いました。
それで大論争になって、最終的に2013年3月、サーベラスは西武HDの株の買い増しを宣言した。つまり、敵対的TOBを仕掛けてきたのです。しかし、2013年6月の株主総会で、サーベラスの株主提案(8人の取締役就任案)は大差で否決されました。
岩出:サーベラスに対して、どのように防衛したのですか?
後藤:社内外に対して、当社の主張の正当性を真正面から正々堂々と説明し、その理解を得ることができました。
株主総会を前にした2013年4月から5月にかけて、西武鉄道の車内に、普段は見慣れない中吊り広告を出しました。「このたびのサーベラス・グループによる当社の株式公開買い付け及び取締役・監査役の推薦に当社は反対しております。(中略)引き続き当社をご支援賜りたくよろしくお願いいたします」
これは、社員たちが自分たちで考えてやってくれたことです。鉄道広告ではなかなか見られないことだと思います。
僕自身は、グループ内のいろいろな企業やホテル、営業所を飛び回って、自分たちの考え方を説明し、状況を共有して心を一つにしました。あのとき、本当にグループが一丸になったと実感できました。大株主からのTOBは、ものすごく大きなピンチでしたが、それがグループの結束を強化するチャンスになり、全従業員が本当に一致団結して、我々と一緒になって戦ってくれて、その後、西武グループは大きく生まれ変わりました。そして、翌2014年4月23日、西武ホールディングスは上場しました。
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