「巻き込み力」を養成する

 上級生が実家の母親のように下級生のために雑用をすべてやってあげていたら、いつまでたっても仕事を覚えません。冷静に考えてみれば、部内のさまざまな仕事は、いずれは覚えてもらわないといけないことであり、習熟には時間がかかります。仕事の種類はさまざまですが、中には習熟するのに1年くらいかかる経理のような仕事もあります。

 その状況を変えるには、1年生に仕事を割り当てるのが手っ取り早いのですが、それでは安易すぎます。仕事(雑務)は、必要だから存在するのであって、押しつけ合うような性質のものでは本来ありません。理想を言えば、仕事をいちいち割り当てなくても、メンバーの誰かが必要性に気づいて、率先してやるという状況が望ましいわけです。

 人に言われてやるのも、係になったからやるのも当たり前です。それを、係にならなくても、必要性や目的を感じて、率先してやるようになったら理想的です。そこまでは難しいとしても、単に1年生に仕事を割り当てるのではなく、部内の仕事に1年生を巻き込んでいく形にできないかと考えました。

 「割り当て」と「巻き込み」の何が違うかというと、4年生が1年生にどうアプローチするかという点で大きな違いがあります。巻き込みは、4年生が1年生に対して、「この作業を一緒にやってみない?」と仲間に引き込むイメージです。引き込んだからには当然、手取り足取り、仕事のABCを一から丁寧に教えていかなければなりません。1年生は仕事を覚え、4年生には「巻き込み力」がつく。巻き込み力は、リーダーに欠かせない資質の一つで、大学を卒業後、社会に出たあとで必ず役立つ「武器」になります。一石二鳥の策だと思いました。

 1年生は上級生のリードで少しずつ仕事を身につけ、2年生になったら自立し、意義や目的を意識しながら仕事をこなす。3年生になると、もう少しレベルが上がってきて、何が必要か自分で考えて自発的にやるようになる。そして、4年生になったら「人を動かす」ことを意識しながら、自分の経験を1年生に教える。この循環をつくっていこうと考えました。

「逆三角形」から「ホームベース型」へ移行

 2019年度までの組織体制は、「逆三角形」でした。1年生は雑務から解放され、「自分づくりに専念」する環境ができました。しかし、その分、「面倒なことは誰かがやってくれる」という依存心が芽生え、上級生に対する「リスペクト」は高まらず、ぬるま湯的な空気感が醸成されてしまいました。そこで、2020年度からは、上級生が巻き込む形で下級生の役割と責任を少し増やし、ホームベース型に変えていきました。1年の時に上級生が全部雑用をやってあげて、2年になって「これからは自分でやって」と言っても、いきなりはできません。仕事を代々、高いレベルでしっかり継承していくためには、1年生のうちから少しずつ教えてあげて、徐々に手を離していくという丁寧さが必要です。

 それによって、下級生に責任感と「自分も部の運営を担っている」という意識を植えつけ、「快適ゾーン」から「学習ゾーン」への移行を図ろうとしたわけです。

(『逆境を楽しむ力』69ページに掲載)
(『逆境を楽しむ力』69ページに掲載)
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 ラグビー部内の活動に関しては、方針や運営の大枠は監督やコーチ、スタッフで考えますが、そこから先は、基本的に学生が自分たちで決めて運営します。活動の中心となるのは、健康安全委員会、体づくり委員会、風紀委員会、チームビルディング委員会など七つの委員会で、必要があれば臨機応変に新しい委員会を立ち上げます。これはいわば「職種別」のチーム編成で、各委員は自分たちに与えられたテーマを掘り下げるだけでなく、そのナレッジを部内に広めていくにはどうしたらよいかを考え、実行します。

 これとは別に、1年生から4年生をミックスして10グループに分けた「クラス」もあります。これは、小中学校の学級と似ています。4年生が担任の先生役になって、必要なことを伝えたり、あるテーマについてみんなで議論したりする小グループです。さらに、各学年には3名ほどの代表がいて、学年ごとのミーティングもあります。

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