(写真:Shutterstock)
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 未来の「あるべき姿」を定めて、その実現シナリオや今すべきことを考える「バックキャスティング」。最近、国や企業でゴールを「2050年」に設定したプロジェクトが増えている。菅義偉前首相は2020年10月の臨時国会で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行った。民間企業ではトヨタ自動車が50年に新車の平均走行時に排出する二酸化炭素(CO2)の総量を、10年比で9割削減する目標を掲げる。

 この他、小売業では丸井グループが「ビジョン2050」を策定して、「国・人種・自然すべてがつながり合う世界」での企業の形を模索し始めている。アサヒグループホールディングス(GHD)も30年先を見据えたメガトレンド分析に注力する。小路明善取締役会長兼取締役会議長は「50年のある特定した未来を見据え、世界そして日本の社会がその時どうなっているのかをイメージする。それなくして今日の事業創造は難しい」と語る。

破壊的イノベーションの必要性

 では、30年後の未来は明るいのだろうか。現状では私たちの生活には多くの課題や困難がある。分かりやすいのは環境問題だ。現在のペースで気温上昇が続くと30~52年の間に世界平均気温は1.5度上昇する可能性が高いといわれている。世界人口は増加の一途をたどり、50年には約97億人に達する。食料安全保障は喫緊の課題だ。その一方、日本の人口は1億人を割るほど減少。少子高齢化が一段と深刻になる。こうした大変化を乗り越えるには破壊的イノベーションによる変革が必要だ。

 危機に立ち向かうべく、世界各国は動き出している。米国ではAI(人工知能)や狙った遺伝子を意図的に変化させるゲノム編集技術で先行。世界的な巨大プラットフォーマーである米GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン・ドット・コム)も新技術への投資に余念がない。中国も次世代情報技術や新エネルギー車の開発を急ぐ。欧州連合(EU)も研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」を立ち上げ、27年までに約13兆円の予算を付けている。

 日本はどうか。企業各社の取り組みも進んでいるが、国も手をこまねいているわけではない。18年から20~30年後の日本社会の課題解決を目指した「ムーンショット型研究開発制度」に関する議論が進み、21年から産官学での研究が本格始動している。「ムーンショット」とは「野心的な目標」の意味だ。実現は困難だが現実になれば社会に大きなインパクトを与える技術。米国のジョン・F・ケネディ大統領が1960年代の間に人類を月面に送る「アポロ計画」を達成したことが語源となる言葉だ。

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