未来の「あるべき姿」を定めて、その実現シナリオを考える「バックキャスティング」。最近、国や企業でゴールを「2050年」に設定したプロジェクトが増えている。その1つである「ムーンショット型研究開発制度」は、内閣府を中心に40~50年までの社会問題を解決する技術開発に挑む。社会に大きなインパクトを与える技術が具現化した未来、人々はどのように暮らしているのか。日本の30年後を“可視化”してみよう。(この物語は取材を基に未来の社会を可視化するクリエーター集団「Future Vision Studio」の榊良祐代表が構成したフィクションです)

■ムーンショット目標4:2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現

【イントロダクション】2050年、温暖化の主原因であった二酸化炭素(CO2)を回収し、エネルギーとして再利用する画期的な技術が確立した。都市では高層建築物がCO2を取り込む機能を果たす。ビル1棟ごとに一定量のCO2を回収する義務があるのだ。空気中のCO2を回収する「ダイレクトエアキャプチャー(DAC)」付きのビルは今や当たり前。住宅や自家用車でもCO2吸収フィルター付きのエアコンが普及している。再生可能エネルギーの活用はより高度化しており、循環型社会は成熟期に入った。その結果、地球環境は改善フェーズに入りつつある。この時代を生きる「β世代」と呼ばれる若者たちは、自然との共生意識が強く、未来への希望に満ちている。

「環境再生フェーズを生きる、希望に満ちたβ世代」

二酸化炭素を回収して、資源として活用する炭素循環社会が実現した2050年の日常(イラスト:よー清水、Future Vision Studio)
二酸化炭素を回収して、資源として活用する炭素循環社会が実現した2050年の日常(イラスト:よー清水、Future Vision Studio)
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 私の名前はナギサ、高等専門学校で機械工学を学ぶ19歳の学生だ。

 就職活動真っただ中の私は、今日は憧れの自然エネルギー企業「スカイフォース」の会社見学に来ている。

 私のような2030年代生まれは、地球環境改善フェーズを生きる「β世代」と呼ばれている。自然エネルギーに携わる職種が今とても人気だ。

 スカイフォースのオフィスは海に近い都市にあり、ビルには巨大なDACが設置されている。ビル風や海風の勢いを利用して、CO2を効率よく吸収し、ビル内部でエネルギーに変化して動力として活用しているらしい。

 余った燃料は同社の関連サービス「スカイタクシー」へ無料提供していて、屋上はスカイタクシーのポートになっている。

 案内役のタイキさんがスカイタクシーの中からオフィスについて色々教えてくれた。

 「スカイフォースは風力発電をはじめ、空気中のCO2を回収する巨大送風機のようなDAC、CO2吸着型のコンクリートの開発、そして回収したCO2から燃料を製造するなど空気や風からエネルギーをつくる技術に特化した会社だ」という。

 このビルの空調にもエアコン型のCO2の吸収装置を完備していて、特に会議室のような人が集まる場所は、CO2を吸収効率がいいらしい。しかも、クリーンな空気に入れ替わり頭もスッキリし、良いアイデアが出ると評判とのこと。

 海上に見えるのはスカイフォースの洋上風力発電で、この街の電力を賄っている。

 プラスチック規制などで有害物質も無くなり、海洋生態系も戻りつつある豊かな東京湾だ。

 ビル群も30年前のコンクリートジャングルから一変して緑化が進み、コンクリートもCO2を吸収する。「まさにジャングルのように地球の空気バランスを守る街になった。そして僕たちはそんなジャングルをつくり支えている」とタイキさんは言った。

 世界人口が増えて経済や産業が進化したが、循環型の進化システムが完成したため、地球全体をクリーンに保てている。

 数世紀ぶりの人と地球の共生時代の復活だ、ともいわれている。私はスカイタクシーから眺めるこの街がますます好きになった。

 街の一つひとつが今の、そしてこれからの自然環境を守るために今日も働いている。

 私もスカイフォースに入社して、私自身も自然の一部として、役割をしっかりと担っていきたい。

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この記事はシリーズ「日本2050 ムーンショットが示す未来」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。