「べき論」ではなく「太陽アプローチ」

 起案するときは、「こうすべきだ」と鬼の首をとったように「べき論」で論破しようとするのは、絶対にいけません。

 イソップ寓話の『北風と太陽』をご存じだと思います。あるとき、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、通りすがりの旅人の外套を脱がせることができるかという勝負をする。まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が外套をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から外套を脱いでしまった。

 「べき論」は「北風」と同じで、よりコートを厚く着込まれてしまうように、反発を強めてしまいます。そうではなくて、「こんな実験をしたら、こんな結果が出て、顧客行動が変わったのですが、どうしましょうか~?」と、ポカポカと太陽が照らすように起案するのが成功の秘訣です。つまり太陽アプローチでいくべきなのです。そうすると、「おお、やろうよ」と自らコートを脱いでくれます。

起案は「全体の戦略」に合わせて語る

 また、起案するときには、事業全体の戦略ストーリーに合わせます。仮に今期の事業戦略と真っ向勝負するような事実が見つかったとして、「今期の戦略は間違っています、本当はこうです」といった起案をすれば、決裁をもらいにくくなるからです。

 今期の事業で重視されているものを尊重した上で、自分たちの案をうまく組み合わせるというのが、「事業のストーリーに合わせる」というやり方です。これは、過去の私の失敗経験から学んだポイントです。若い頃は血気盛んで、よく「べき論」で起案して却下され、本当に悔しくて、夜な夜な枕を濡らしてました。

 リーン・マネジメントを使いこなせるようになれば、新事業の創造や既存事業の変革を迫られたとしても、マネジメントにおけるハードルが一気に下がります。より多くの人がこのマネジメント手法を実践できるようになれば、未知なることへのチャレンジがもっと楽しめるようになり、多くの企業でイノベーションが生まれやすくなるでしょう。

 大企業にはベンチャー企業とは違う、大企業なりの創造・変革マネジメント手法があります。リーン・マネジメントによって、皆さんが、つらく出口の見えないプロジェクトから解放され、ワクワクして、手触り感のあるプロジェクトを生み出していっていただけることを心から願っています。

(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)
(写真=Rawpixel.com/Shutterstock.com)
[画像のクリックで拡大表示]

日経BOOKプラス 2022年5月6日付の記事を転載]

会社を変えるのではなく、チームを変える

新規事業や事業変革を推進する上での障害となる「不幸な光景」「大企業あるある」を解決する、「目から鱗」のマネジメント手法の解説書。日本を代表する企業のマネジャーたちが絶賛する超実践講座を書籍化。驚きのセオリー&明日から使えるツールが満載。

【目次】
第1章 なぜ日本の大企業では「イノベーションの教科書」が役立たないのか?
第2章 リクルートエージェントの売り上げをどうやって1年で100億円アップさせたのか?
第3章 「未知のこと」を扱うリーン・マネジメント(概要編)
第4章 実験とは何か?
第5章 実践編1 驚きのセオリー
第6章 実践編2 明日から使えるツール
第7章 脱・平凡発想
第8章 現場で一歩踏み出すためのヒント