探偵のように社内でヒアリングしていく

 いよいよ伸びシロが見つかったら、なぜここに大きな伸びシロがあるのかという課題仮説を立てにいきます。ここでは「課題仮説ツリー」を使います。これはツリー状に漏れなくダブりなく課題を洗い出すツールです。

 そして、「なぜこの課題が残っているのか?」を社内の担当メンバーやユーザーなどに探偵のようにヒアリングしていきます。「法律によって決められている」「利害関係があるからこのやり方をするしかない」といった何らかの理由があって、そのやり方になっていることがほとんどです。まずは課題が残っている理由を、構造的に理解することが大切です。

 ヒアリングをする際は、データと観察力の両刀使いをします。つまり、定量データと定性データのどちらも駆使するということです。ヒアリングをしても、相手の表情の変化や受け答えで本心ではないなと感じたら、さらに深掘りしてヒアリングしていきます。感性で探りにいくというイメージです。

 基本的には、このフェーズは表面化していないインサイトを探りに行くので、ユーザーや社内担当者、自分自身で体験した他社のサービスの不満など、すべてにおいて、データを見ながら仮説を立てて、観察力で探りにいくということを繰り返します。そして、「このやり方になっている理由」が構造的に理解できたところで、それに対する打ち手を考えます。

 「打ち手の仮説」では、誰もが賛成するような「ありきたりな打ち手」ではなく、「これまでに誰も考えなかった打ち手」を考え尽くす必要があります。

 なぜかというと、既存事業であれば、過去にこのビジネスに関わってきた先輩たちが一生懸命課題と向き合い、一生懸命解決しようとしてきているはずです。それに敬意を払うのであれば、当然、自分が考えつくような打ち手は、過去の先輩も考えついていたと考えるべきなのです。

 その打ち手は、何らかの理由で過去に実行されなかったか、実行されたのかもしれないが課題が解決されなかったので元に戻っている、という前提に立つべきです。

「筋の良い打ち手」で課題を一網打尽に

 では、どうやって「これまで誰も考えなかった打ち手」を考えればいいのでしょうか?

 この場合、2つの方向で打ち手を考えます。

 1つ目は、自社では過去に「タブー」とされていた打ち手が、本当に今でもタブーなのかを確かめることです。タブーと言っても、法律を犯したり、倫理的にNGなことをしたりするという意味ではありません。業界の慣習として「そういうことはやらないことになっている」「やろうとしてもやれない」という打ち手です。

 タブー視されている打ち手は、考えても実行できなさそうなので、常識のある人は考えません。だからこそ考える価値があるのです。もしかすると、それは法律の制約を受けていることかもしれません。ただ、その法律の範囲内で、何とかやれる方法がみつかるかもしれませんし、過去にタブーとされていた理由は、今はもう効力を失っているかもしれないのです。そんな強制思考を回すことによって見えてくる打ち手もあります。

 2つ目は、課題に対して打ち手を一対一で考えないということです。ある課題Aに対する打ち手をa、課題Bに対する打ち手をb、というように、ツリーの末端に対して1つひとつ打ち手を考えていくということは基本的にはしません。なぜならば、解決するコストがリターンと見合わなかったり、課題同士が絡み合ったりしている可能性があるので、1つの課題を解決すると、そのしわ寄せで別の課題が大きくなるということがよくあるからです。

 では、どうすればいいのかというと、ツリー状に作った課題仮説の1つずつに対して打ち手を考えるのではなく、複数の課題を一網打尽に解決できるような打ち手を考えます。トレードオフにあるような課題が複数ある場合は、その課題群を一気に解決する打ち手を考えつかない限り、課題のしわ寄せごっこをしているにすぎないのです。

(『リーンマネジメントの教科書』91ページに掲載)
(『リーンマネジメントの教科書』91ページに掲載)
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 これら2つの打ち手の方向性は、メンバーに何度も何度も言い続けなければなりません。「過去はダメだったかもしれないが現在はOKになっているかもしれないことを探そう」「一網打尽にできる打ち手を考えよう」ということをメンバーに再三伝えた上で、意識的に実行してもらうようにします。メンバーが思いつかなければ自分も必死に考えて、思いつくようにします。簡単に思いつくような打ち手が「正解」である確率は低いと考えるべきです。

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