家電や書籍の購入時や、レストランを決める際などに、いまや無視できないレビュー。「星の数(レーティング・格付け)」を見て比較検討することも多いのではないでしょうか。数字は判断基準として役に立つ一方で、学問的知見がないために、不適切に算出された数字に依存して、失敗につながるケースも多いといいます。実際のビジネスに必要な学問的な知見とはどういうものか。どうすれば、実装できるのか。新刊『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる』の編著者であり経済学者の坂井豊貴氏と、同じく編著者で経済学のビジネス実装に取り組んでいる今井誠氏が語ります。後編は「数字が持つ力を正しく活用する方法と、経済学のビジネス実装」について。
(対談前編から読む)

「数字への過信」が判断をゆがませる

坂井豊貴氏(以下、坂井氏):前回お話しした「レーティング」とも関連しますが、人間は「数字を無条件に信頼する」傾向が強いと思います。前回話題にしたレーティングでいうと、「何点」という数字は気にするけれど、その数字の算出の仕方にはあまり注意を払いません。

今井誠氏(以下、今井氏):数字の算出の仕方がおかしくても、その数字が真実を表しているかのように思ってしまうわけですね。

「根拠が乏しい方法で算出された数字によって、判断を間違えることもある」と語る今井氏
「根拠が乏しい方法で算出された数字によって、判断を間違えることもある」と語る今井氏
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坂井氏:例えば、ある種の顧客満足度を表すNPS(Net Promoters Score)というレーティングがあります。NPSを組み入れたソフトウエアを売りたい方々が、いろんな企業に薦めています。しかしNPSは、データの集約の仕方があまりに単純すぎて、業績との連動が乏しいことが多くの研究で示されています。

今井氏:結局NPSは、11段階評価のデータを「推薦者」「批判者」「それ以外」に大ざっぱに分けるんですよね。そして「推薦者」が30%で、「批判者」が20%だったら、その差の10をNPSとする。「それ以外」についてはノーカウント。

坂井氏:そう、いわば11次元の情報を、3次元に落としちゃうわけです。もったいない。そうやって情報をものすごく単純化する。だからNPSは明瞭なんですよ。信じたくなる気持ちは分かる(笑)。でも視界が明瞭だからといって、価値あるものが見えているかは別の話です。

今井氏:経済学をきちんと身に付けると、指標そのものへの見方が鋭くなります。「この指標が、見たいものを表してくれているのか」と、問う習慣が身に付く。それは私たちが経済学のビジネス実装に携わる中で、ぜひ推進したいことです。私たちの取り組みの一部は『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』にまとめられています。

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