起こるべくして起こった「食べログ被害者の会」
今井誠氏(以下、今井氏):インターネット上のレーティング(格付け)を基に意思決定することは、もう当たり前になりました。食べログで評価が高い飲食店で食事をし、アマゾンのレビューで多くのレビュアーが高評価を付けている商品を選ぶ、という具合です。
一方で、不透明、不公正なレーティングへの批判が起きています。直近の例では、「食べログ被害者の会」(*)。4000ものチェーン飲食店が食べログに対して集団訴訟を起こそうかという事態になっています。坂井さんはレーティングも専門としていますが、今の状況はどう思いますか?
坂井豊貴氏(以下、坂井氏):レーティングはその影響力が高まるにつれ、高い社会的責任を求められるようになりました。どういうロジックで点数が付いたかが透明であること。そのロジックが公正なものであること。透明性と公正性のいずれか1つでも欠けるレーティングは、今後、高い訴訟リスクを抱えると予想しています。
仮に法廷でいかなる批判をされようとも、すべてに合理的な説明で対処できる、堅固なロジックがレーティングには必要なのでしょう。
今井氏:「点数を付ける」というのは本来、重い責任を伴う行為ですよね。
坂井氏:その通りです。例えば大学が入試で採点ミスをすると、世間から強い非難を浴びるし、学長は謝罪会見を開かねばならない。飲食店の点数付けは入試の点数付けほど責任は重くない、と甘く考えるのは禁物です。点数は、店主の人生や、会社の運命を変え得るわけだから。そもそもレーティングを提供するサービスは、一方的に採点をして勝手に公表するわけだから、必ず敵をつくるんです。相当注意深くやらねばならない。
今井氏:食べログへの集団訴訟は、経済学の学問的知見――学知が十分に取り入れられていたら防げたかもしれない、ということですか?
坂井氏:食べログに経済学が取り入れられているかどうかは知りませんが、おそらくほとんど、あるいは全く取り入れられていないのではと思います。きちんと取り入れていたなら、そのロジックを堂々と公に説明できるはずなんです。そうしたら人々はそれなりに納得してくれる。あるいは「このロジックを打ち負かすのは難しい」と思ってくれます。
今井氏:もし訴訟になっても、学知が適切に取り入れられていたならば、そのレーティングのロジックを説明できますね。
坂井氏:仮に私が設計したレーティングを不満に思った人に訴訟を起こされても、私はロジックとその正当性をすべて学問的に説明できます。おそらくこの分野で私より詳しい人はいませんし、どのような質問をされても、まず間違いなくそれは私が過去に考えたことがある問題です。これは私がえらいからではなくて、私が学問という「巨人の肩の上に乗っている」からです。
今井氏:私自身は不動産オークションの運営に携わっていました。その不動産オークションでも、2018年から坂井さんに関わってもらっていました。当時、私の周りは専門家の知見――専門知の必要性をそこまで感じていないようでした。しかし、私自身、オークションの制度設計には専門知が必須だと思っていました。ここをおろそかにすると、どこかで無理が出るのではないかと。説明責任を果たせるルールづくりが重要な時代になってきたということですよね。
坂井氏:その通りです。食べログをはじめとするウェブサービスのレーティングは、要するに、ユーザーがインプットした情報を1つの数字に集約して表しているわけです。インプットを集約してアウトプットに変換する「関数」を設計するというのが、レーティングのルールづくりです。あれは社会指標設計と関数方程式の知識がともに必要な、難しい分野なんですよね。膨大な学問の蓄積があります。
今井氏:経済学者の知見なくしてそうしたサービスを提供するのは、大変なことですね。
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