「グーグルに引き抜かれる社員」を育てよう

星野:例えばAI人材とかDX(デジタルトランスフォーメーション)人材という点で言えば、どれだけ業務の場で実験をして改善していけたかがスキルに直結します。ですから、業務をフィールドとした実験を行うことができる場を提供するのも、一つの方法かもしれません。確かに給与面ではなかなか外資系にかなわないというのはありますが、若い人の中には、3年や5年という年月をかけて、自分の知見やスキルを伸ばしたいという欲がある人も多いんじゃないかと思います。

 だから、米グーグルや米アマゾン・ドット・コムのような会社にはなれなくても、学知を用いた実験ができるなど「学びに寛容な環境」を整えておけば、例えば将来はグーグルやアマゾンからオファーが来るような人材が、「いったんこの会社で知見やスキルを身につけ、自分のバリューを上げよう」と考えて来てくれる可能性がある。

安田氏:若くてモチベーションの高い有能な人材が、キャリアのごく初期に能力を発揮できる場を準備するということですね。

星野氏:「学びに寛容な環境」をつくる余裕なんてないと思うかもしれませんが、実は、極めて費用対効果は高いと言えます。

 学知の背景には過去の膨大な研究の蓄積があります。例えばABテストをしようというときに、いろいろな可能性がある中で何をAとして何をBとすれば一番意味があるか、結果につながりそうかを考える際、仮説を立てるために先行研究や理論はものすごく役に立ちます。

安田氏:この「仮説を立てる」能力は本当に大切ですよね。

星野氏:経済学をビジネス活用するというのは、過去の膨大な蓄積を踏まえて、いわば最初から「打率の高い策」を選ぶということです。「学びに寛容な環境」をつくって勉強意欲の高い人材を集めるのは、企業にとってもメリットが大きいのです。

 実際、すでにそういうことを試みている日本企業は増えていますね。ただし結局は、こうして自社でバリューが上がった人材を、超高額オファーを出してくる外資系に取られちゃうケースが多いです。最近も、私の顧問先企業の方がグーグルに2倍の給与で引き抜かれていきました。

安田氏:最終的には給与の高い会社に引き抜かれてしまうとしても、自社で働いている3年間なり5年間なりは、ちゃんと学知を生かして成果を出してくれる可能性が高いわけですよね。もし本当に、自社の数倍の給料でオファーが来るような人材だったとしたら、本来は数倍の給料を払わなくてはいけない人材を、格安で、しかも若くてモチベーションが高い時期に活用できることになります。

星野氏:これは非常に大きなアドバンテージです。

安田氏:能力もモチベーションも高い若い人がいると、組織全体の雰囲気も良くなるものです。そう考えると、終身雇用前提ではなくて、有能な人材が若いうちの数年間を高いモチベーションで働くことを前提にした組織が増えていくと、日本のビジネス界はもっと面白くなりそうです。私たちの新刊『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』が、その役に立つといいですね。

日本企業がグーグルやアマゾンのように「働きたい企業」になるための条件とは(写真:Benny Marty/Shutterstock.com)
日本企業がグーグルやアマゾンのように「働きたい企業」になるための条件とは(写真:Benny Marty/Shutterstock.com)
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構成=福島結実子

日経BOOKプラス 2022年5月26日付の記事を転載]

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