ビジネスに生かせる「シニカルな視点」

星野氏:安田さんは新刊『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』で、「ビジネスには経済学のサイエンスとエンジニアリングの両方が必要」とおっしゃっていますね。これは、すごく的を射た表現だと思います。今のマーケティングの話でいえばエンジニアリングの部分はマーケティングが肩代わりした形になっていますが、サイエンスがあることで、そのマーケティングの正当性が明らかになるわけですから。サイエンスを欠いてエンジニアリングだけで物事を進めようとすると、しなくていい失敗をすることになるでしょうね。

 経済学のサイエンスという下地、つまり、入山章栄先生がおっしゃるところのディシプリン(対談第1回参照)が、ビジネスには必要不可欠です。経済学は、細かい事情は捨象して物事の本質的なところを見ていくことが得意な学問ですし、経済学者も少し意地悪な視点というか、斜に構えて物事を見るところがあるというか……。

安田氏:シニカルですよね(苦笑)。

星野氏:だから情報学系ベースのデータサイエンティストと少し違うのは、経済学者は物事を見るときに単なる「相関」では許せなくて、「因果関係」をとことん識別しようとするところですね。

 因果関係が分からなかったら、いくら原因に手を加えても望む結果は得られませんから、見た目の相関だけで判断してはいけないわけです。

安田氏:「何が原因でどう結果が変わったのか」という、因果関係を踏まえて策を打ち出さなくてはいけませんね。

星野氏:さっきのテレビCMの話で言えば、広告会社は「夏にビールのテレビCMを打つと売り上げが伸びますよ」という誘い文句で、夏の広告枠を飲料メーカーに前売りしようとしてくるわけですから。

 もちろんテレビCMには一定の効果があるはずですが、この場合は、「ビールがよく売れる季節にテレビCMを打った」という話なので、テレビCMの効果は簡単には測れない。このように因果がはっきりしない類のデータは、世の中にはゴマンとあります。単なる見た目の相関だけで判断をすると、広告の効果が過大評価されたり、逆に過小評価されたりする、というのは実際、よく起こっていることです。

安田氏:これは要するに広告戦略を見誤るということですから、結果的に、利益減につながりかねません。

星野氏:はい。重要なのは、因果のいろいろな網をきちんと解きほぐして、何をしたら売り上げが増えるのかということをちゃんと見ていくこと。経済学者はそういう訓練を積んでいます。

安田氏:そうですね。エンジニアリングだけではなく、サイエンスをベースにエンジニアリングをすることが重要です。経済学者はサイエンスの発想があるからこそ、エンジニアリングだけでなく、企業の利益追求にも貢献できる。ぜひそんなふうに捉えてもらえたらうれしいですね。

事前販売は「売り手」の独壇場である(写真:pathdoc/Shutterstock.com)
事前販売は「売り手」の独壇場である(写真:pathdoc/Shutterstock.com)
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構成=福島結実子

日経BOOKプラス 2022年5月25日付の記事を転載]

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