経営学者も認める「経済学の最大の強み」

安田氏:星野さんから見て、経済学者がもっと入り込むことで、よりマネタイズしやすくなるビジネス分野は多いと思われますか?

星野氏:はい。そもそも利益を最大化するために、限られた人、お金、情報などの資源をどう配分するかというのは、まさに経済学が得意とするところですよね。

安田氏:資源の最適配分は、経済学の考え方の大きな柱の1つです。

星野氏:例えば「今期は広告と販促と営業、それぞれにどれくらいの資源を割り振ったらいいか」ということを理屈で考えられるのが経済学です。今の日本企業の多くはそこが欠けているから、何となくの感覚で「今期は何%ずつにしましょう」という決め方をしてしまっている。

 先ほどのNPSの話も同じです。NPSのような一見よさそうなKPIだけを見ると、「とにかくそれを上げろ」という話になる。でも、「どれだけ上げると利益がどれだけ増えるか」は分からないから、コストをいくらかけるべきかが分からない。

 一方、他者への紹介価値を含めた顧客生涯価値の最適化ならば、「他社紹介を促す施策にいくらコストをかけたらいいのか」「離脱防止には、いくらコストをかけたらいいのか」の配分ができます。

安田氏:なるほど。お金という単一の物差しでセクション(部署)ごとの事業を比較することで、事業間のトレードオフが把握でき、最適な資源配分が実現しやすくなるわけですね。

 逆に、社内での資源配分がうまく機能しないと、どうしてもセクションごとにしか戦略を立てられなくなりますよね。個別最適にはなるかもしれませんが、企業そのものの全体最適にはなりません。

星野氏:それで利益を最大化しようとしても、かなり厳しいものがあるでしょうね。

安田氏:経営学者の入山章栄さんがおっしゃっていたのですが、経済学の最大の強みは「ディシプリン」、つまり「体系立った理論」があることだ、と。

 僕たち経済学者自身はあまり自覚していないところがありますが、ディシプリンをたたき込んでいることで、何かキャッチーなコンセプトが出てきても惑わされにくいという下地はあるように思います。

星野氏:経済学者は「理論に則して考える」という訓練を徹底的に積まされますからね。

安田氏:例えば、ひと口に「競争戦略」といっても様々な理論や手法がありますが、それらの多くに共通して当てはまるのは、つまるところ「利益を最大化するために、いかにしてライバルを減らし自社の競争環境を独占市場に近づけていくか」というテーマなのです。

 この下地があると、競争戦略の新しい理論や手法に触れても、「アプローチが違うだけで、究極的な目的は同じ」と俯瞰(ふかん)的に捉えることができる。下地がないと目的を見失ってコンセプトに飛びつきがちですが、それとはまったく見えている景色が違うわけです。

星野氏:新しい「最新の理論」が出てきても、自分を失わずに、見栄えのよさにだまされずにいられるということですね。

評価指標の設定ミスが企業の成長を妨げる(写真:Rawpixel.com/Shutterstock.com)
評価指標の設定ミスが企業の成長を妨げる(写真:Rawpixel.com/Shutterstock.com)

構成/福島結実子

日経BOOKプラス 2022年5月24日付の記事を転載]

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<開催概要>
イベント名:「このビジネス課題、こうやって解決しました。」
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開催方法:Zoomによるオンラインイベント
参加方法:三省堂書店有楽町店にて『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP 1600円+税)をお買い上げの方
参加券配布期間:5月18日(水)10:00~6月2日(木)18:00
詳しくは→三省堂書店 オンラインイベント The Night School×三省堂書店 Presents「このビジネス課題、こうやって解決しました。」

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